sun-flower.the.baby 2



そうして、彼が男の子から男になるころ、
彼はその家をさっさと出ました。
そして、都会の或る一角に住むことにしたのです。

都会は、気持ち悪いところでした。

ぼとぼとぼとと、何かが落ちていくのです。
友情や、薄情や、温情や、感情さえも。

彼は普通にその日も道を歩いていました。

「すいませんー。」

誰かが話しかけてきます。
声は、女です。
彼は振り向きました。
大きな鞄を持つ、小さな女の子でした。

彼女は「友達に…」とアパートを探していましたが、
どうやら、道に迷ったようなのです。
彼はそのアパートを知っていました。
隣だったからです。

彼はすたすたと歩き出します。
女の子は小走りになっていました。
彼は彼女が息を切らしているのに気付いて、
ふと、足を遅めました。

彼は「何してるの?」と後ろを向いて聞きました。
「大学、通ってます。」と彼女は言いました。
「へぇ…」と彼は返答します。
少し会話を交わすと、彼女も心が落ち着くと思っていました。

目的地のアパートに到着しました。
彼女は大きな鞄を彼に持って貰っていました。
それもあるのか、彼女は、
何度も、何度も、
おじぎをして、電灯の下にいる彼の顔を見ました。

彼はそこを離れます。
月が太陽のように、一瞬、見えました。
気のせいだと首をふるふるとふって、
彼は自分の家へと戻ります。



次の日、彼はまた同じ道を歩いていました。

「すいませんー。」

また誰かが話しかけてきました。
声は聞き覚えがあります。
そうです。昨日会った気がする、女の子です。

今日は近くにあるスーパーの場所を聞いてきました。
彼はそのスーパーの場所を知っていました。
彼女は今日も、大きな荷物を持っています。

「それ、持つよ。」

彼はその荷物をひゅっと抱え上げました。
彼女は「ありがとう」と言いました。
「どうも…。」彼は、そう返答します。

スーパーにたどり着きました。
彼女はまた彼をじっと見ながら、
「ありがとう」と言います。
彼は、気恥ずかしくなって、そそくさとそこを去りました。



次の日、彼はまた同じ道を歩いていました。

「すいませんー。」

彼女がいました。
彼はコンビニまで案内してあげました。



次の日、彼はまた同じ道を歩いていました。

「すいませんー。」

彼女がいました。
彼はコインランドリーまで案内してあげました。



次の日、彼はまた同じ道を歩いていました。

「すいませんー。」

彼は内心いつもの人だと思いました。
彼は後ろを振り向きます。
やっぱり、女の子が立っていました。
今日は、荷物を持っていません。

「今日は、どうしたの?」
「…。」
「また、道に迷ったの?そんなはず…。」
「どこですか?」
「?」
「あなたのアパートって、どこですか?」

彼女は家出少女でした。

大学を止めて、親に追い出されて、
誰も信じられなくなって、
この近くで、友達の家にこっそり入って、
暮らしていたのです。

彼は現実をわきまえていました。
彼は人間の心をわきまえていました。

でも、彼は今の気持ちを、知りませんでした。

彼はだんだん何かがキエテイク感じがして、
だんだん何かがウマレテク感じがしました。



バイトでお金を入れることを条件で、
彼は彼女を招き入れました。
自然すぎる成り行きに彼は驚いていました。

あんなに愛してくれたおばあさんを疑い、
あんなに褒めてくれた両親を疑い、
あんなにキライだった都会のど真ん中で、

彼は、変わっていたのです。

いつの間にか、
彼女は大切な存在になりました。

ウマレテク何かを彼女は受け止めてくれます。
ウマレテク何かはお互い様でした。

ただただ、彼女は笑っているだけでした。
彼はその笑顔を嫌になることはありませんでした。



太陽が叫びます。
また、夏がやってきたのです。

彼女はもう就職をしていました。
一流企業に勤め、
彼は会社を辞め、『一生懸命』に彼女を支えました。

「一生懸命に、支えてくれて、ありがとう。」
「気にするな。俺は一生懸命しか、取り柄が無いんだから。」
「そんなこと、無いよ?」
「本当に?」「…ホント。」

彼は彼女を優しく抱きしめました。
彼にとって、一生懸命は、
いつの間にか自分らしさになっていたのです。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第328号
ページ番号
2 / 3
この作品について
タイトル
sun-flower.the.baby
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第328号