sun-flower.the.baby 3(終)
…
そのうち、子供が二人、産まれました。
彼はそのたびに、ベランダに、
小さなヒマワリを一本、植えます。
友達である奥さんが「可愛い」とそのヒマワリを、
彼女の家でも育て始めました。
うわさ話が大好きな、意地っ張りな人も、
彼女にふられ、意気消沈している人も、
アパート中で、やがて、ヒマワリを育てる人がいっぱいになりました。
いつの間にか、彼は幸せでした。
彼は幸せをいつどこで手に入れたのか、
誰から貰ったモノなのか、
全く、見当も付きませんでした。
そのアパートは「向日葵荘」と呼ばれるようになりました。
窓から、前庭から、
壁に沿いながら、向日葵が一斉に花を咲かせます。
彼はそうして、そのアパートから離れませんでした。
彼の子供も、向日葵が大好きでした。
…
ある日、彼は突然光が自分にみなぎるのを感じました。
奥さん—いつかの大学生、は、その様子を不思議そうに見ました。
突然、彼は身体が溶けていく感覚になりました。
どこかで、心のどこかで、
「サヨウナラ」と言っているのが聞こえました。
彼は悟りました。
自分はいつの間にか、
死ぬために必要な「何か」を手に入れてしまったのです。
彼は光の中で、自分の生い立ちを彼女に話します。
そして、今、自分は死ぬことを、
一言ずつ、つらい気持ちに襲われながら、
彼女に話したのです。
「どうして?」
「どうしてだろ?」
「お願い、行かないで…。」
「…ゴメンね。」
「ダメ…。」
「…ありがとう。」
「ダメ…だってば…。」
「なぁ…
これからも、好きでいてくれるよな?」
彼女はいつの間にか泣いていました。
彼もまた、彼女と一生会えなくなることが、嫌で溜たりませんでした。
彼は彼女の笑顔が見たいと、
ふと笑って、
彼女の頭を撫でてやろうと、手を伸ばします。
しかし、それが届く前に、
光は消え、彼も、消えていました。
そうして、もう二度と、
彼が生き返ることは、ありませんでした。
…
果てに何があるかさえ分からず
消えていくんだろう?"someday I'll die"
"sun-flower"の種を一粒摘んで
家の中に太陽を咲かせましょう
どうしても避けられない別れは
どこの世界誰にでもきっと来る
そんな時この光が涙を照らすことでしょう
"happy birthday,to you"
小さな強さ 胸に抱いて
泥の中の宝石を精一杯愛してく
例え捨てることが正しい時が来ても
傍でこの目を見ていて欲しい
Nowhere,ah,nowhere,I can go to,
Without you,without you,...
小さな太陽 胸に抱いて
日だまりの坂を駆け抜けていく
例え裏切られ傷つけられ生きてるとしても
傍には誰かがいるのでしょう
だから あなたといられて良かった
ありがとう...
…
彼の消えた後には、或る一つのモノが残りました。
…一粒の、向日葵の種です。
…そうして、来年、
彼女のベランダには、向日葵が3本咲くのでした。
fin