sun-flower.the.baby

季節が夏になると、
日だまりの丘がいっそう光り出します。
大きな太陽が上から見守ります。
まるで何かを求めるよう、『小さな太陽』が背伸びをします。

…そして、或る丘の一本のヒマワリから、 
何百年に一回、
小さな男の子が生まれると言います。
その丘の近くの街の人々は、その子供をこう呼ぶのです。



『サンフラワー・ザ・ベイビー』



日だまりの下で1人の男の子がいました。
彼は死ぬことが出来ません。
彼はサンフラワー・ザ・ベイビーなのです。
確かに、永遠の命などは、ありません。
『或るモノ』を手に入れたとき、彼も死にます。

でも、彼はもう5回も生まれ変わっていました。
周りにいた同じ身体をした人間は次々に死んでいきました。
死んで、もう二度と彼に笑うことは、ありません。

…彼もまた、人の笑顔など求めていませんでした。

人間が嫌いでした。
殺し合う生き物、求め合う生き物、
欲望をむさぼり、仲間を裏切る生き物。
彼の頭にはそうインプットされていたのです。

裸の太陽が彼の頭を照りつけます。
あの光がある限り、彼は生きられるのです。
少しの曇りや、雪があろうとも、生きるのです。

でも、人間の心は、
あまりにも多くの黒い雲に隠されていて、
素直に受け入れることは出来ませんでした。

太陽の子供は、闇を拒むのです。

でも、生まれてきたモノは仕方ありません。
どこかで生きて行かねばなりません。
どんなにおなかがすいて、苦しくなっても、
彼は…死ねないのですから。



最初に彼はおばあさんの家で生活しました。
寒い季節に入りかけていました。
彼は暖かい場所を求めていたのです。
そこには暖炉がありました。おばあさんの温もりもありました。

彼女は心底この子を愛しました。

…でも、彼はおばあさんが嫌いでした。

太陽の子にとって、『暑すぎた』のです。
どんなに暖かい気持ちが彼女にあろうと、
彼には暑くて溜まりませんでした。

暑くなると、人間誰でも心がぼやけます。
そして、疑心暗鬼になるのです。

彼女が包丁で野菜を切っています。
—次は僕を殺すんだ。

彼女が火をくべています。
—僕を今からあそこで焼くんだ。

そうやって、いつの間にか、
彼はおばあさんを避けていました。
おばあさんは寂しい顔をして彼を見ていましたが、
やがてとぼとぼと部屋に入っていきます。



一週間後、おばあさんは死にました。

彼は「またか…」と思って家を出ます。
それ以上感情的になることはありませんでした。
彼女の財産はいりません。
太陽がある限り、どこかで生きていけます。



次に彼は家族の一員として養子になりました。

そこには若い夫婦がいました。
何かが原因で子どもは産まれませんでした。
なので、いろんな所から養子を貰っています。
彼は8人目でした。

彼は学校に行かず、家の手伝いをしました。
生まれ変わっても、記憶は残ります。
学校に行かなくても、勉強も、
人を上手く扱うコツも、知っているのです。

手伝いは一生懸命しました。
そのたびに母親は彼を褒めます。
彼はその手を拒まず、頭を撫でたままうつむきました。

夜になると、会社から父親も、
学校から、他の子供達も、帰ってきます。

1人はとても頭の良い子。
1人はとても運動の出来る子。
1人はとても女の子にモテル子。

母親と父親はこう彼らに言います。

「こんなに勉強できて凄いね」
「そんなに運動できるのか。凄いなぁ。」
「格好いい顔してるよ、良いね。」

そして、最後に決まって、
サンフラワー・ザ・ベイビーにはこういいます。

「『一生懸命』で、良いね。それが凄い。」

彼は嬉しくも何ともありませんでした。
彼の顔は中の上程度です。
勉強は何度生まれ変わっても普通です。
運動もそこそこしか、出来ません。

一生懸命が、何が良いんだ!?

彼には分かりません。
父親も母親もニコニコして彼を見ます。
でも、彼はそれを嘘の顔だと思いました。
どうせ、心の底では、
「役立たず」としか思っていない…そう感じたのです。

そうして、彼はまた、距離を遠ざけました。
家事は手を抜くようになりました。
母親はそのたび叱ります。

「一生懸命しなさい!」

彼はその言葉がキライでした。
だから、また、家事はきちんとこなします。
綺麗に磨かれたお皿。
父親はまたこういいます。

「『一生懸命』で、良いね。」

一生懸命でもないのに、そう褒められるのです。
彼は一生懸命なんて、
所詮、特徴のない人間への、
せめてものフォローだと思っていたのです。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第328号
ページ番号
1 / 3
この作品について
タイトル
sun-flower.the.baby
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第328号