-SENSE- 2 奴隷

1匹のチャオは炎天下の日差しの中、自分の会社へと帰っていく。
自分の会社?
違う。『奴隷として飼われている身分』としての帰宅である。
チャオは『人間』に支配されていた。
いつの間にか、人間の上手い口実によって。
チャオは人の下となって一生懸命に働く。
それは原子力発電所のもっとも放射能の当たるところでの作業、麻薬の取引となる運び屋、相手の国へのスパイ、はたまた安全綱のないビルでの作業・・。
人がやればすぐ死や犯罪が見えてくる仕事ばかりをやる。
使えなければ処分も可能、チャオを殺すことは人としてはただのゴミ箱にゴミを捨てるようなもの。
時に天才の頭脳を持つチャオも現れるだろう。
そんな頭脳を持ってしても人の【支配】から逃れることはできない。


【人じゃなければ法に触れない】


誰がこんなことを考えたか。
だが、チャオは普通に人と共に暮らしている。
しかし人間より上の立場になることは絶対にない。
ただただ言われた事を嫌な顔をせずに実行していくのがチャオなのだ。


『帰ってきました。社長』


さっき自分の会社に帰った1匹のチャオはビルの一番高いところにある・【社長室】に来ていた。
テレビで見たことのあるような大きな壺や歴代の社長の額。まさに社長室に相応しい部屋である。
机ひとつが目の前にあり1つの席がある。
そこの席に座っているのは【人間】である。


『帰ってきたか・・。どうだ、【出来杉財閥】からは交渉をとることができたか?』


眼鏡をかけた黄色のスーツを纏う派手な社長が重く口を開く。
社長の名前は【のび・のびろう】
小学生時代はいじめられっ子であり勉強、運動ともダメであったが一緒に暮らしていたタヌキが死んでから以降は一気に学力は上がり、大学生のころには首席をとった。
大学卒業後はタヌキの研究でノーベル賞を25歳の若さで受賞。
それからは経済学を学び今は普通のIT企業として日本のトップに君臨する会社である。
ちなみにタヌキの名前は【ドラ】
通称【ドラちゃん】


『すいません・・。出来杉社長は我々の商品を1つも取引してくれませんでした!!!』


1匹のチャオは頭を深く下げ、土下座のような形になるくらいまで下を向く。
これを見たのび社長はおもいっきりチャオを蹴り上げた。


『ばか野郎!!てめぇがあの社長に交渉できなかったら誰がやんだよ!?おい!!』
『すっすいません・・・あの社長は・・』
『言い訳してんじゃねえよカス!また今から出来杉財閥いって交渉してこいよ!!』


なんどもなんどものび社長はチャオを蹴るなり踏んだりはたまた壁に叩きつけたりして1匹のチャオに葛を入れる。
これを人間にやれば【虐待】となるが、チャオにやっても虐待にはならず法にも触れない。
チャオに怒りなどはない。
殴られても蹴られても叩かれても謝罪をするだけ。
チャオは体から血をださない。ただ色が少しだけ黒ずんでいく。


『本当にすいませんでした・・・。今からまた出来杉財閥へ行ってきます。』


ボロボロになりながらも1匹のチャオは立ちあがり、少し足を引きずりながら部屋を出ようと頑張る。
そんな時、のび社長は1匹のチャオをつかんだ。


【のび社長】は鬼の形相で1匹のチャオを見る。
『いいかお前、僕は人間だ。お前らからすれば【神】の存在だ!
僕がやれといった企画に絶対に応じなければならない。
お前は頭脳でいえばエリートクラスだ。他のチャオよりも知能や発想は群を抜いている
だからこそ使ってやってんだよ!
てめぇは他のチャオよりいい給料もらってんだ!
明日同じ結果だったら【森の監獄】行きだからな!!
あんまり僕を怒らせんなよカス!』


のび社長は自ら扉をあけ、1匹のチャオを部屋の外へ吹っ飛ばす。
またもや地面に叩きつけられ、目の前の扉はすぐに閉められた。
これがチャオにとっては日常、普通なのである。
のび社長は多くのチャオを扱っていた。
しかも普通の人より知能もよく、ステータスの高いチャオをのみを扱う。
なにより【人件費】がかからない。会社の負担はいっきに減る。
給料は人間の10分の1である。
それくらいの価値にしかチャオは見られないのである。
この世界でチャオは必至に生きる。
給料が少なくても生きていけるチャオは幸せなのだ。
年間にチャオの死亡率は人間の倍以上・・。
しかしチャオは人工的(人間の開発した装置)により自分の子供を量産できるために絶滅の心配はいらない。
【怒り】を知らないチャオはただ奴隷として人の下で生きていくのである・・。


『体中が痛い・・・・でも今からまた出来杉財閥に行かなくちゃ・・』


1匹のチャオは立ちあがり、階段で下へと降りていく。
このビルは約50階
チャオはエレベーターを使うことは許されない。
まさに差別
25階あたりまで降りていくと、他のチャオが階段に座っていた。
そのチャオは待っていたかのように立ちあがり声をかける。


『社長がまた無茶なこと言ってたのかい?僕も力になるよ』


続く。

このページについて
掲載日
2010年7月31日
ページ番号
3 / 4
この作品について
タイトル
-SENSE-
作者
土星(サターン)
初回掲載
2010年7月31日