3
ベースを握る。さっきの指の痛みは取れていた。まだいけそうだ。
俺はやってみようと思った。
リィは俺が手伝ってくれと言ったら喜んで付いてきてくれた。
彼女は最近もう一人のメンバーが引っ越してしまったらしい。
だから、彼女もコーラスやキーボードは久々だという。
観客はどよめいた。
いつもと違うメンバーをリィが連れてきたぞ!
全員、期待と「マンネリだろうか?」と言うような眼差しを向けた。
俺は気にせずベースを鳴らし始める。
ニットキャップをしていたのでおれの黒いわっかのぽよは見えなかった。
だからだろうか。
俺の声を聞いた瞬間「おぉ」という声が聞こえてきた。
みんな俺のことをダークチャオだと思っていたらしい。
しかし、それよりも、この声に耳をみんな傾けてくれた。
ハイテンションな歌は盛り上がってくれた。
リィも「久々」にしてはうまく弾きこなす。コーラスもきれいだった。
ふと、―JOY―という言葉が浮かんできた。
いつか、俺が捨てて二度と拾わないと思っていた言葉を俺は取り戻したような気がした。
でも、俺はもう終わりの方だった。
自分の生を4楽章に例えるなら、これが4楽章の終わりだった。
そう思う。そして、その先にまっているのは―。
全曲弾き終わった。大きな歓声が聞こえてきた。
そして、それから毎日と言うほど、俺はライブハウスで演奏した。
リィともプライベートで会うくらい仲良くなっていた。
俺の何かが、・・・変わっていた。
だが。
リィは真実を知らない。ライブハウスの人たちもたぶん真実を知らない。
俺は何か変わった。だが、身体が白くなることはなかった。
一ヶ月はそろそろだった。
俺は・・・決心した。
何も言わず、黙って警察に行こうと。
それがリィにとって・・・いや、俺にとって一番楽だった。
雪が降りそうな季節になっていた。
冬。そう、あの事故が起こらなければ、
あそこでこの季節を過ごしていたはずだ。
そして、その季節は―刑務所で過ごすことになるようだ。
俺は荷物を整えた。リィ・・・か。
俺は一瞬思い浮かべた、が、すぐにかき消した。
ベースギターも今日でお別れだ。
今日で最後。―今日で最後のライブをすることになっていた。
いつも通り、いつも通りだ・・・。
俺はそう言い続けながらライブハウスに向かった。
すると、リィは心配そうに俺の顔を見つめた。
・・・今日でこいつの顔も見れなくなるのかな。
俺は泣きたくなった。だがリィの前で泣き顔は見せたくなかった。
―大丈夫?なんか今日変だよ?
―あぁ、・・・そっちこそ、顔が暗いぞ?
―大丈夫だよ、ソゥちゃんの顔がくらいから、私も・・・。
突然、リィがうっと一瞬呻いて、ばたりと倒れてしまった。
―え・・・?お、おぃ!リィ、どうしたんだ!おい、誰か来てくれ!
俺は叫んだ。
その後、リィは客によって運ばれた。
当然、俺も付き添った。―よりにもよって、こんな時に倒れるなんて・・・。
俺は病院で彼女の病名をきかされた。
先天性急性BCV性症候群。
血を腐らせるチャオ特性のウィルスに感染したらしい。難病だ。
リィは危ない状態だった。
医者はこう口を開いた。
―この病気を治すためには、中性の血が必要です。
ただ、ニュートラルチャオは今では世界に100もいない・・・無理でしょう。
―いつまでに接種させればいいんだ!?
―おそらく、後、3時間・・・。
医者はあきらめていた。俺は椅子に力が抜け、座り込んでしまった。
疲れていたのだろうか。
俺は何故か昔の記憶が浮かんだ。ちょうど事故にあった時だ。
5年前、ちょうど放射能を浴びて、意識が戻った日のこと―
―・・・え?俺の血がヒーロー性じゃない?
―そうだ。放射線によって君の血はダーク性が混じった。
その色もおそらくその血同士が中和したのだろう。
―中和・・・というと?
―つまり君の血は中性なんだ。ただ、この現象は普通は起こらない。
君は奇跡だった。そのような遺伝子を持った両親に感謝なさい・・・。
そう、そうだ。俺の血は、この血は中性なのだ!
俺は先生にそれを言おうとした、
だが、ここで俺の頭の悪魔が俺を引き留めさせた。
今ここでリィを見殺しにすれば、リィはおまえの真実をしらないまま死ぬ。
おまえにとって、そっちの方が幸せじゃないのか?
おまえはそうすればこの後後悔しないと思うぞ。
選ぶな!おまえはもう刑務所行くのは確定しているんだ。
俺は悪魔にささやかれて躊躇した。
俺は椅子に座り込んだままだった。
一時間が経った。選択している時間はない。
俺は病院を出ようとした。もう行こう。そう思った時だった。
看護婦が俺を止めた。
―リィさんが、あなたを呼んでいますよ。
俺は驚いた、が、どうせ最後だと思っていくことにした。
俺は見殺しにしようかと考えていた。
悪魔の言いなりにはなりたくなかったが、楽になりたかった。