これが恩赦だと?ばからしい。
恩赦ではなく、不可能を俺に与えたようなものだった。
・・・一ヶ月間、あの「黒い街」にもどろうか。
俺は一ヶ月が長いように思えたし、むしろ今日だけでも良いと思った。
しかし、警察はさっさと身をひいた。
よけいな詮索だが、こういうことは検察の仕事ではないのかと思った。
・・・たぶん、ぱしられたんだろうな。だから、あんな顔になったのだろうか?

部屋にもどってもある意味無気力だった。
俺は部屋には黒いものを置かない主義だった。
ただ、一つだけ大切な思い出であり、黒いものがあった。

ロックベースのギターだった。

俺はこれをじっと見ていた。弦を張り替えた直後に事故があったので、
弦はきれいなままだった。
俺はこのロックベースのことを4弦と呼んでいた。
・・・4弦・・・か。
もう一度、弾いてみようか。4弦。

心なんてどうでも良い。・・・もう、終わりだ。
だから、最後にもう一度、4弦をかき鳴らしてみようか。
俺は舌打ちをして立ち上がった。
もう夜になっていた。俺は光の方に向かって歩いた。
ストリートで、ベースのみの演奏で・・・たぶん誰も来ないだろう。
まぁ、いい。適当に一ヶ月、これを楽しもう。
客なんて・・・いらない。

裏の道は明るすぎる街だった、ある意味光り輝いていた。
そして、朝にはゴミとかすが捨てられていた。転がっていた。
だから、この商店街は明るいと言うより、きれいだった。

俺はじゃっとならす。アンプもスピーカーもまだ調子が良かった。
俺は誰がいるわけでもなかったが歌い始めた。
ダダダダと低い音を鳴らしながら、歌った。
最近の歌ではないが、結構調子よく、きれいな音が出た。

その瞬間、誰もが一斉に立ち止まった。
俺は何か事故でもあったのかと思った。演奏を止め、辺りを見渡した。
そこには俺を見る人やチャオがたくさん集まってた。
その目は冷たくはなかった。見たこともないような目だった。
・・・ブーイングでも始めるのかな?

俺はもう一度演奏を始める。
誰かがヒューと言った。すると、全員拍手をした。ブーイングはなかった。
俺はその意味がよく分からなかったが、調子は良かった。
何十曲も歌えそうな気がした。
俺はベースをかき鳴らした。
しかし、チャオという生物はギターのための手ではないので、だんだん痛みを感じて、
やはり途中で断念した。が、誰もがきれいな表情をしていた。
俺は何か思い出したくない過去に自分はもどっているような気がした。

演奏をもうしないと分かったヒトやチャオはどんどん帰っていった。
俺はベースの弦をゆるめ、片づけていた。
すると、そこに一人のチャオが何かを背中に担いでいた。
形からして、キーボードだろう。
そして、どうも顔からして、女のチャオらしい。
ナチュラルパーマのようなほぼまっすぐのの白い毛が両脇に地面まで垂れ下がっている。
ピンク色のフードをしている。目からしてヒーローチャオのようだ。
白い身体に白い毛・・・だが、どこかしら、生きてきた道が似ているような気がした。
すると、彼女は俺に話しかけてきた。

―初めまして。演奏、上手ですね。
―まぁ、そうですね・・・。
―あの、バンドとかしているんですか?
―昔は―。でも、みんな別々の所に行ってしまったんですよ・・・。
―あ、そうなんですか・・・。

嘘だった。バンドしていた奴はみんな俺以外は同じ所に行った。
天国という名前の、同じ所へ・・・。
だが、初対面の彼女に言うべきではないと思った。嘘も方便だ。
彼女はその嘘を当然嘘とは思わずに少しうれしそうな顔をして、こういった。

―えっと・・・なんか、人柄良さそうですね。・・・チャオ柄・・・かな?
 あの、私とライブハウスに行ってみませんか?
―ライブハウス・・・久しぶりですね。
―時間があるなら行きましょうよ!
―えぇ、時間ならありますよ。一ヶ月という時間を除いて―あ、いや、何でもないです、
 そうですね、行きましょう。

彼女ははてなマークを浮かべたが、すぐに笑顔になって歩き出した。
俺は彼女について行った。彼女の名前はリィと言った。
俺は名前を出さなかった。適当に略称―ソゥと答えておいた。
実際友達からはそう言われていた。

ライブハウスは白熱していた。
みんな毛やぽよを揺らしながらマイクやギターを片手にじゃんじゃん弾いている。
あまり上手な演奏をするチャオも人間も少なかった。
しかし、うるさいとは思わなかった。
むしろ、楽しいように感じた。

何故だろう?

さっきの人たちの目線が俺をそうしたのか、ここにいるリィがそうしたのか。
あるいはあの警察のおっさんがそうしたのか。
答えを見つける気はなかったが、少しそう感じた。

ただ、昨日までとは何か違うように感じた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
2 / 5
この作品について
タイトル
戦場のギタリスト
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号