『リアリーヘブン・ブルー』 ある4月1日のことでした。
俺はまともじゃない。
そんなことくらい分かっていたよ。
だから、人にない何かを神様は授けてくれた。
―そう、俺は未来を見ることが出来る。
―未来を見る?
ダーカは最初から丸い目をさらに丸くして、
その眼鏡をかけた中年の男に問いかけた。
―そうさ、俺は子どもの頃からそんなことが出来たんだよ。
―じゃあ、質問しますけど、何処の大学出ましたか?
―地元の大学さ、県外は頭が悪くて受からなかったよ。
何としてでも県外に行きたかったんだけどね。
その言葉を聞いてダーカはにやっとした。
―じゃあ、問題の答えを見ている未来を見れば良かったのでは?
―うっ・・・流石ですね。そうですよ、今日は4月初日です。
―チャオとして生きて20年になりますからね。
―成る程ね。じゃあ、俺がチャオを開発してから、30年か。
30年前。俺はチャオというゲームにはまっていた。
その時は単なるゲームの中のサブゲーム。
だけど、俺は本編よりもそれにはまった。
ある時、形状記憶ジェルというモノが開発された。
俺は、その時の開発メンバーの一員だった。
そして、リーダーに伊南村さんという人がいた。
時代に似合わず、熱血漢でな、ユーモアがあった。
みんなあの人のことを尊敬していたんだよ。
いつだっただろうか。
あの人が急に倒れ込んでしまったのは。
後になって分かったことだったが、彼は肺癌だった。
だが、そんなこと知るよしもない俺たちは、
また次の日にやってきた彼にまた、仕事を任せた。
彼は四六時中むせていたような気がする。
そして、その都度手のひらを見ていたことも。
―伊南村さん、大丈夫ですか?
―大丈夫だよ、チャオが出来るまで一緒にがんばろう!
でも、彼はいつも笑っていた。
そんな彼に誰が癌にかかっている人間だと言えるだろう?
癌はもう末期に近づいていただろう。
ある、3月の上旬だった。
彼は倒れた。力尽きたというのかもしれない。
そこで、俺たちメンバーは彼が癌であったことを知った。
俺たちは悲しみより驚いた。いや、
むしろ、俺たちよりも彼が一番悲しかったのかもしれない。
あの時は奇跡だったんだろうか。
・・・それとも告知だったのだろうか。
チャオがついに完成した、4月1日の時だった。
完成する3時間前ほど、俺は彼に会ってきた。
もう、呼吸器は取り外せなくなっていた。
俺は彼に聞こえていないだろう言葉を発した。
―伊南村さん、もう少しで完成しますよ。
―此処に連れてくるので、がんばってください。
もちろん計器が狂うので、そのチャオは持ち込めない。
でも、俺は嘘を言った。
それまでは嘘は悪いことにしか使っていなかったのに。
そして、完成した1時間後。ドアががちゃりと開いた。
伊南村さんが立っていた。嘘だ・・・そんな馬鹿な・・・。
―完成したのか!よくがんばった!俺は嬉しいよ。
―伊南村さん!どうやって此処へ・・・。
―そんなことどうでもいいさ。本当におめでとう、みんな・・・。
その言葉を聞いた瞬間、みんな泣いた。
伊南村さんはにこにことして立っていた。
ふと、顔を上げた。
すると、先ほどまでいた、伊南村さんが消えていた。
後日、彼は既に死んでいたことが分かった。
幽霊だったのか、あるいは自分たちが同時に、
伊南村さんのことを考えたのか。それは分からない。
でも、あの笑顔は死んだ笑顔ではなかった。ただそういえる。
クサイ話はいざ本当にあると泣けてくるものなんだよ。
だから、チャオの表情で、
俺たちは笑顔を大切にした。
確かにただのロボットかもしれないが、
笑顔があるロボットは魂が宿るんだよ。そう思わないか?
―私は、チャオだからよく分からない話ですけどね。
ダーカは一言そういうと、青色のドロップを差し出した。
―何ですか?このドロップは。
―リアリーヘブン・ブルーですよ。本当の天国ということです。
―・・・。へぇ、じゃあ、これはなめられませんな。
―・・・そうでしょ?やっぱり。
男が帰った後、ダーカはぼそっと呟いた。
チャオが開発されたのは、密輸による科学反応。
それで、裏が手を回してチャオの開発チームが作られた。
だから、彼の開発チーム自体が悪だったのだ。
ダーカはそれを知らないはずがなかった。
だが、その伊南村という男が、真の笑顔を見つけようとして、
死んでしまったのは本当なのだろう。
そして、それをチャオに託したことも。そう考えると、今の
開発話はある意味では嘘に塗り固められていたのかもしれない。
終わり。