『イージュー☆グリーン』 ねえ、どうして涙が出ちゃうんだろ。

音も立てずに、がらがらと崩れるのが悲劇。
ふと後ろを振り向いたときに気付く物が幸せ。
人は現在を生きているだけでは何も分からない。

チャオはどうなの?

チャオはある程度懐けば転生するだけ。死ぬだけ。
喜びが悲しみに急に変わるなんてことは無い。
お金を稼がなくても実はなる、水はきれい。環境も良い。
チャオに幸せなんて見つかるの?

―だから、見つかる可能性のある人間についていくのですよ。

ダーカはゆっくりと客に問いかける。
かわいげのあるまだ若いその女は、頷いた。

―そう、成る程ね。

じゃあ、私が高校生の時の話をしてあげる。

幼いときに母親は死んだ。
でも、泣かなかった。悲しくなかった。
そして、高校生になって、今度は父親が過労で死んだ。
今度こそ情が豊かになってきた年だし、
泣くと思っていた。

でもね、泣かなかったのよ。何故だか。
私は思った。
―私は結局一度も泣くことはない。強いんだなと。

ある日ね、父親の遺品でこんな物があった。
それはね、決してかっこよくない、不格好な灰色のギター。

その時、ちょうど友達とバンドを組むことになって。
でもその時はただ単にギターが弾きたかっただけなのよ。
だから、メンバーとはあまり顔を合わさなかった。

私は、歌詞を書く係になった。
もちろん初めての経験だったよ。
最初はどんなことを書けばいいか分からなかった。
お気に入りのアーティストの歌詞を参考にしようと思って、
見てみたけど、何にも思い浮かんでこなかった。

バンドのみんなの足をひっぱっているんじゃ・・・?

私は何故だか、その時生まれて初めて泣いた。
もちろん、赤ん坊と時とかは抜きで言っているのよ。
不思議でしょ?

肉親が死んだときも、
高校に受かったときも、
虐められたときも、一度も泣かなかった私なのに。

でも、その時分かったのよ。
どんな人間でも泣いたときに成長するんだって。
気付くのが遅すぎたのかもしれない。
でも、私はその時から歌詞が飛ぶように思い浮かんできた。

そして、もう一つ収穫があったのよ。
それはその時からバンドのメンバー全員で、
時間を過ごすようになってきたと言うこと。

メンバーで、笑って時間を過ごす。
何故か、そのことが一人でいるより楽しく思えてきた。

卒業式が近づいていた。
最後にもう一度このバンドでライブしようってことになって、
私がもう一度歌詞を作ることになった。

卒業式当日。
私たちは卒業式の後、校庭に向かった。
沢山の人がいたよ。誰がこんなに呼んだのか、今でも知らない。

ボーカルは東京へ、ベースは北海道へ、ドラムは九州へ。
そして、私は兵庫へ。
離ればなれ、最後のライブ。

私は全員で抱きあった時、もう一度泣いた。
自分は強いと思っていた。
でもそれは全然違っていた。
悲しみを発散する方法を知らなかった、ただの子どもだったのよ。

―なんか此処ではドロップをくれるそうねぇ。
―通ではないはずですけど?
―ライカ、きたでしょ?あのこの飼い主なのよ。私。
―成る程、そういうことでしたか。

ダーカはゆっくりと緑色のドロップを取り出した。

―『イージュー☆グリーン』ですよ。
―な・・・何か個性的な名前ね・・・。
―ふふふ。意味は奇跡。まぁ、貴方に奇跡が来ることを願います。

『イージュー☆グリーン』
奇跡が起きる。それは泣かせるため。
泣けば泣くほど、その人間は成長する。
チャオには分からない、人間しか知らないこと。
奇跡を信じる人間だけが・・・。

―へぇ、此処って良い店だねぇ。ねぇ、みんな・・・・。え?

その女達3人は一斉にドロップをなめる女を見て驚いた。
そのドロップをなめる女も驚いた。

8つの目から涙がぽとんとこぼれ落ちた。

―以外と私のドロップは効果がありそうですね。

ダーカはそんな4人を見てくすっと笑った。

奇跡は起こるかどうかは分からない。
でも、必ず起こらないとは誰も保証出来ない。

だから、人は待つ、その奇跡の瞬間を。

チャオにはない、その奇跡の瞬間を。

終わり。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第222号
ページ番号
5 / 8
この作品について
タイトル
「ナナイロ・ドロップ」
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第222号