[you've already known,haven't you?]
俺は少し彼女の方を見る。
彼女は何にも考えていないようだったし、
何か考えようともしていなかった。
俺は一体…?
先ほどまで彼女の背中より、ハーレーに彼女がつけた、
ソフトクリームの事が気が気でならなかった。
しかし…今は…?
俺はそれ以上に心の周りに何か白いクリームを塗りたくられて、
目線を彼女だけに限定するように仕向けた。
俺は…?
>atasi視点
「ねぇ、何か用でもあるの?」
私は彼にそう尋ねた。
嬉しかったのは嬉しかったのだが、何か不思議だった。
いつもはこんな事なんて無かったはずだった。
まるで、バラードソングが唐突に、
激しいロックギターのソロに見舞われたかのような展開。
「ん…いや、いや、何でもないんだ…?」
「いやいや、何でもないことはないんですよ。」
「ま、マスター…」
マスターはにやっとして、
彼の頭をそっと掴んで私の方に向けさせた。
彼は内心恥ずかしそうに、ちょくちょくこっちを見る。
「いや、久しぶりに、お前と話がしてみたくてさ…。」
「久しぶり…か。そうだよね。久々だよね。…うん、良いよ。
話そうよ。」
私は嬉しそうな顔をして彼の目をじっと見た。
もちろん、気持ちが「嬉しい」そのものなんだから、
私の顔に強盗の時の偽りの顔は残ってはいなかった。
私は少し寝そべって彼を見る。
見れば見るほど、今日の彼は少し変だった。
いや、今日じゃない。
さっきまで私がハーレーにつけたソフトクリームでぼやいていた。
「鳥のフン」とか言って散々だったっけ…。
でも、その彼が、
私がトイレに行っている間にあっという間に変わった。
…ちょっと嬉しい。
「おまえ…俺とこんな仕事していて、どう思う?」
「え…、ちょっと、目の前に…。」
私は少しマスターの目を見る。
すると、マスターは他に客がいなくなったことを確認し、
奥の部屋へと向かっていった。
「…あ…、…。」
「いい人だな。あのマスター。」
「…でも、何でそんな話をいきなりしだしたの?」
「お前、俺といて、楽しいか?」
ドクンと、胸がなった。
そして、顔が寒い肌の内側からじーんと押し寄せてくる。
あぁ…ドキドキとしだした。
私は口元を腕で覆い隠して、
寝そべったまま…本当は動きたかったが…、
私は彼の顔をじっと見た。
「何で…そんなこと聞くの?」
本当は素直に「楽しい」と言いたかったけど、
なんか、恥ずかしかった。
こんな事を聞かれたのも初めてだし、
私が彼のことが好きだから、なんかやっぱり、恥ずかしかった。
そして、つづけて、
「そんなこと、聞かないでよ…。」
彼はしばらく黙って水割りを飲んでいたが、
しばらくしてグラスをことんとカウンターに置き、
私の方をじっ、と見た後、口を開いて、
「…それはこんな仕事だから、か?」
「…うん、……。…ぁ…!」
私はしまったと思った。
恥ずかしさから、ついつい嘘を言ってしまった。
どうしよう、どうしよう。
パニック状態に陥る私。
あわてて起きあがって本当のことを言おうとしたが…。
彼は、冷静だった。冷静すぎた。
「…そうか。」
「あ、ぅ…それは…。」
「いいんだよ、お前の率直な意見が聞けて良かった。」
「……ごめん。」
「良いさ、気にするな。」
私はその後何も言えずに、二人で飲み物を飲んでいた。
が、やがて、宿泊するところを探そうと、
私を連れて彼と店を出た。
星が綺麗だった。…知ってはいたが、
私は、今は下しか向けない気持ちだった。
そして、下には、汚い濁った水たまりがあるだけ…。