[as the you said...]

>ore視点

明日に起こることは何も考えていない。
いや、むしろ何も考えていない。

だから、この時間は彼女の時間となる。
俺はそれに引っ張られる犬というか…奴隷というか。
まぁ、とりあえず、俺は色に染まり、
そして、リラックスできる。

バイクのエンジン音が消える。
そして、それが冷たくなって、虫の鳴き声の方が目立つ。
夜になったんだな。
俺は自然にそう思った。

瀟洒な喫茶店に二人で入る。

見た目だけではないとは思っていたが、
やはり中身も優しさに包み込まれた、穏和な雰囲気だった。
彼女は目を輝かせて、
マスターの後ろに置いてあった色々な人形に目を向けていた。
少し古びていたそれは、俺にはとてもじゃないけど、
理解しがたいし、好きになれない物だった。

だが、その人形たちもまた…この喫茶店を引き立て、
俺たちを迎え入れてくれた。

俺は下を見ながら、彼女を連れて端の席に座る。
真ん中には常連と思われる男女が多くいた。
マスターはしばらく俺たちを見ていたが、

「お二人さん、もっと真ん中に来れば良いんですよ。」
「…そうですか?」
「えぇ、そこは、暗いでしょう。
 それに…お嬢さんが、この人形に興味があるようですしね。」

彼女はそれを聞いて少しほほえんだ。
何て気の利いたマスターなのだろう。
…こんな汚れた「職」に身を墜とした俺とは大違いだった。

「…ありがとうございます。」
「いえいえ。」

マスターは少し真ん中よりによった俺たちに、
それぞれ温かいコーヒーを取りだした。
もう、時間は真夜中と呼んでも良い時間帯。
常連も今日はそんなにも来てはいなかった。

俺はマスターと話を始めた。
置いてきぼりにされた彼女は少し寝そべって俺を見たが、
流石とも言える会話術を持つマスターに、
俺はあっという間にのめり込む形となった。

そうしてどんどんと時間は過ぎていく。


2時間が過ぎただろうか。

暇をもてあましたのだろうか、
それとも、会話を続けてハブられたのに嫌気が差したのか、
突然トイレに行くと、すたすたとトイレに閉じこもってしまった。

それを見た俺はため息をついた。

「…あいつ。」
「まぁ、別に恥ずかしいことでもありませんし、
 ため息をつくことでもありませんよ。」
「そうでしょうか…?」
「そうです。それに彼女はあなたに嫉妬しているんですよ。」
「…嫉妬?」

いきなり出てきたその言葉に、
俺は思わず仰け反った。
「嫉妬」なんて、思いつきさえもしなかった。

しかし、マスターは続けた。

「あなたは知らないのでしょうか?
 彼女はあなたを心底好きなんじゃないのですか?」
「…それはどういう意味で、だ?
 仲間としてか?それとも…。」
「えぇ、恋として、愛として。」
「…。」

俺はコーヒーを飲む。
タバコに手を伸ばし、ライターに火をつけ、
あわただしく吸い、吐いた。
彼は黙って俺を見ていたが、少し笑って、
一つの飴、いや、ドロップを手渡した。

「ん…?ドロップ。」
「そうです。名前は…『ファースト・ディプライブ』」
「…?奪う…最初…?」
「あなたがもしも、彼女に何かを奪われたとき、
 これをなめなさい。
 そして、彼女を大切にすることですね。」
「…。」

俺がマスターの言っている意味を考えているとき、
ちょうど、彼女がトイレから出てきた。

そして、嬉しそうにまた俺の隣に座った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
4 / 9
この作品について
タイトル
Mr.Beloved 2
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号