Mr.Beloved 3
―いや、おまえが俺と離ればなれになるときが来たらどうしようかなってさ。
こいつは笑っていった。
―やだ。そんな事なんて絶対にないよ。
このままあたしが大人になってずっと一緒に暮らしていくんだもん。
―そうか・・・そうだよな。
B級アニメのように偶然あの町で出会って、一緒に住んで、
エロアニメのようなことは何もなく、ただ、幸せに住んで、・・・。
幸せ・・・そう、お互いが幸せなのだ。
互いの利益と欲望を埋め合うだけの気持ち悪い関係なんかでは無い。
こいつのことが大切、だから。
そう、だから、・・・こそ、この法律ができた今、俺たちは離れなければいけない。
こいつのことが大切なら、こいつの未来を取り消す権利はないから。
俺はいたたまれなくなって一人で外に出た。
あの「無邪気な笑顔」が俺をぐさりぐさりと蝕んでいった。
微妙な感情だった。
首都タワーが見えた。あれに追いつこうと他のビルが背伸びをしている。
あのタワーはこんな人間達を見て何を思うだろう。
こんな人間達に作られたことをずっとひがんでいるのだろうか。
それともこんな一組の男女の行く末を嘲笑してるのか。
このまま逃げたい気分だった。
あの「幸せな」家に戻る気は何故か起こらなかった。
・・・別れよう。
今日、知らない女を抱いて、家に泊まらせてもらおう。
そして、金を巻き上げて別のアパートを借りよう。
今度は借家ではなく、安いぼろいアパートを。
それが、せめてもの償いだから。
・atasi視点
夜になっても彼が帰ってこない。どうしたのだろう?
窓の隙間から冷たい風が吹き込んできた。
嫌な予感がした。
もしかしたら、あの町でまた他の・・・。
こんなガキはやっぱりいらないのかもしれない。
いや、元々はただ、泊まるだけの関係だ。
赤の他人だ。
赤の他人だから・・・。
ぼろぼろと涙がこぼれてきた。自分で思った言葉に、
とても悲しい気分になったのは初めてだった。
親になんか感じなかった何かをたった今、感じた。
あたしは数分ソファーで声を出して泣いていた。
そして、突然、自分でも分からなかったが、外に出たくなった。
彼を捜したくなった、求めたくなった。
何をあげても良い気分になった。
他の女に激しく嫉妬した。
そして気づいた。あたしは・・・。
・ore視点
街は俺が一人抜けたからと言ってそう変わってはいなかった。
この街のおかげで俺は幸せとこの孤独を味わえた。
蹴り飛ばしたいけど、蹴り飛ばせない。
抱きしめたいけど、抱きしめられない。
なんなんだろうな。この街は。
そして、俺はふと後ろを向いた。
理由は分からなかった。
だが、そこには息を切らしたあいつがいた。
―おまえ、一人でこんな所まで・・・。
―他の女なんかにあげないよ。
あたしの大切な人なんだから。
・・・そして、あのときと同じように。
そこにチャオはいなかった。
チャオの純粋さは彼女に乗り移っていた。
体中が暖かくなった。
小さい体で、精一杯の力で抱きついてきた。
周りはバカップルのような目線を突きつけた。
だが、そんな事なんてお構いなしに、
俺は彼女の腕を引っ張り込んだ。
今日はこいつと過ごそう、いや、過ごしたい。
その後は記憶にあまり無い。
気が付いたら朝になっていた。
・atasi視点
あのときから、あの街に彼が行くことはなくなった。
しかし、その時の彼の顔は心中穏やかではなかった。
直感的に隠し事をしていると思った。
そんな時、一つの話が舞い込んできた。
高校に入らないかという話だった。
―学校・・・久しぶりだなぁ。
ねぇ、どう思う・・・?
―あぁ、良いんじゃない・・・のか?
―ん?なんか嫌そうだね。
他の男の子にあたしが取られるかもしれないって?
―ったく、そんなんじゃねぇよ。・・・。
あたしは何かを隠していることに気づいてはいた。
だが、何がそんなに心配することがあるかが分からなかった。
・ore視点
俺は最近、職を探し始めた。
こいつとはいつか別れる。
そして、遊びで女はもう抱かない。
女は、俺はそんなことのために生きているわけではないから。
しかし、いつまでもこいつと別れるタイミングはなかった。
そして、ついに彼女の入学一週間前まで、
それがくることはなかった。
その日、彼女は国のバスで俺の家を出た。
もちろん、外面的な話しか聞いていない彼女は、
満面の笑みでバスに乗り込んだ。
カエッタラドウイオウカ?
アヤマッテスムコトナノカ?
ニゲヨウカ?
シンデシマオウカ?
アァ、イヤダ、ナニモカモガグルグルヒキコマレテイクヨ。
俺の頭は、一週間疑心暗鬼、絶望と孤独だった。
プラスに考えよう何て思わなかった。
愛しい人が俺のために死ぬなんていやだった。
いや、・・・悔しく、虚しかった。