Mr.Beloved 2

・ore視点



現代はそんなにはあまくないんだよ。
今からこの子を裏の世界に引きずり込んじゃえよ。

俺のどこかがそう言っているが、俺にはこのコを見捨てる気には、
さらさらならなかった。

現代に少しくらい甘いものがあったっていいんじゃないの?

そう言う声も聞こえてきた。その通りだと思った。

彼女にはチャオがいる。
彼女自身が気づいているかは分からないが、
多分、「本当に」一人になったことなんて・・・無いんだろうな。
もしかしたら、俺も「本当に」なんて無かったのかもしれない。
火遊びながらも隣には誰かが立っていた。
男でも、女でも。

―来いよ。

そのコは戸惑って聞いた。

―どこに・・・?

俺は戸惑って答えた。

―家へ・・・だ。



・atasi視点



家。男盛りの男の、家。
さっきの想像が現実になってしまうような気がした。



でも。



もしかしたら「それ」は暖かくてほのかに明るいモノかもしれない。
寒くて暗い、まぶしすぎて寂しいこの街とは違うのかもしれない。
行こうかな。
そう一瞬思っていたときには、言葉が出ていた。

―・・・うん。



・ore視点



今日の夜は違う。
どこかが違うというわけではない。
全てが違った。
この女がくれた品物で借りたこの一軒家に、二人の人間がいる。
暖かい人肌なんていつも感じているのに、今日は違った。
あの抱きつかれた感触が離れなかった。

今日は暖かかいベッドだと俺は思った。
今夜はこのまま眠ろう。
背中からかすかな寝息が聞こえてきた。

過去に縛られている俺たちを、今、未来はどう受け止めるのだろうか。
よく分からない。だが、これだけは言える。
過去が変化していくからこそ今があって、
今が変化していくからこそ未来がある。

・・・この横顔、この身体。
こんなのよりももっと美しい女は、いた。
だが、このコだけが俺の未来にもいそうな気がした。
いや、いて欲しいという感情がどこかに芽生えていた。

そう、未来でも・・・ずっと・・・。



しかし、その未来は限りなく狭いモノだった。
それは俺がこいつを家に招いてから半年後のことだった。
そろそろ、二人の生活にも慣れて、
仲がどんどん良くなっていく頃だった。



・とある記者 視点



―この世の中で「LEVEL」の低い人間には、
 強制的に死刑を執行させてもらう。

いつもは騒がしい他の記者達は、今回だけは静かだった。
いや、静かにさせられたと言っても良いのかもしれない。
首相以外は皆誰もが冷や汗を垂らしていた。
わが国の首相は話を続けた。

―この世の中に置いて、この国は、
 むごい殺人・少年犯罪・教育問題・・・。
 沢山の問題を抱えるようになった。
 しかしながらこの法律により、
 そのような行動を起こすと考えられる者は死刑に処され、
 良い人間だけが子孫を育むことになる。

首相は間をおいて、

―そして、そのLEVELをはかるものとして、
 「チャオ」を利用させてもらう。

記者は訊いた。

―チャオで、どのようにLEVELを・・・?

―これからは生まれた人間は一匹のチャオを持ってもらう。
 その時は、心が完全に形成された16歳・・・高校生。
 その入学式の一週間前にチャオを持たせ、生活させる。
 だが、LEVELをどう判断するかは言えない。

首相はまた間をおいた後、さらに険しい顔で、

―そして、年齢を偽る、チャオ授与を拒否する、逃走する
 チャオにその授与者をいやがる傾向があるならば、・・・。

そして、首相はおもむろに銃を取りだし、
会見場の天井に引き金を引いた。
大きな乾いた音が静かな空間に響き、

―即刻、死刑だ。



・ore視点



―おいおい・・・こんな事って・・・ありか?

俺は首相のいかれた法律をテレビで聞いていた。
首相によると、そのLEVELはこう決まっていくらしい。

1・その人の性格、性癖に問題がないか。
2・その人の才能がこの国に良いものかどうか。

そして、

3・その保護をしていた者が健全であるかどうか。
  保護、つまり情愛、恋愛感がある相手の1や2がその者のチャオに反映される。

俺と横で何も知らず悠々としているこいつとの関係そのものを指しているようだった。
こいつは、まだ15歳。
この法律が適用されてしまう・・・!

正直1や2に引っかかるチャオ・・・ダークチャオはこいつは作らないだろう。
だが、3があるとしたならば・・・こいつは・・・。

―・・・ねぇ、何怖そうな顔しているの?

無邪気な顔でこいつは俺の問いかける。
どこかで、いや、俺の本心が叫んだ。

離したくないんだろ?

・・・。俺は自分にたいして口を閉じた。
何も言い返すことができなかった。
こいつを離せば、こいつが成人になったときまた再会すれば。
もう二度とと言うわけではないのに。
でも、それでも・・・。

あぁ、惨めだ。
俺は初めて「孤独」というものを感じた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第257号
ページ番号
3 / 5
この作品について
タイトル
Mr.Beloved
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第252号
最終掲載
週刊チャオ第257号
連載期間
約1ヵ月5日