Mr.Beloved 4

そして、一週間後。彼女を乗せたバスが帰ってきた。
死刑になろうがなるまいが、一日の猶予が与えられるらしい。
必要もないのに。
まるであざ笑うかのようにあのニュース時の銃声が響く。



アァ、カノジョノカオガクライヨ。

コナイデクレ!コナイデクレ!

オレヲオイツメナイデクレ!

シノウカ、キミトボクトデシノウカ!!!



頭がこんがらがって、狂気に犯される前に、
愛しい声が俺の耳に響いた。

―私のチャオ、灰色だった。
 ヒーローチャオだけど、・・・灰色だった。
 ヒーローに進化したから、来週、再審査だって。

俺はゆっくりとその目を見ながら答えた。

―・・・俺のせいだよ。俺が悪かったんだ。
 おまえをこんな惨めな目に遭わせて・・・。
 そんなくらい顔にさせてしまって・・・。

彼女はうつむいて答えた。

―違うの。
 あたし、大切な人が「黒い」んじゃないかって、言われた。
 あたしは・・・言い返せなかった。
 大切な人をけなされたのに、言い返せなかった!
 自分を取り戻させてくれた人なのに、言い返せなかった!
 アァ、ソウカモシレナイなんて思ってしまった!

俺は目をつぶって聞いていた。
そして、少し上を見ながら少しずつ言葉を吐いた。

―明日、俺はこの家を出よう。
 そして、もう、戻らない。
 ・・・分かるよな?
 おまえは、心を整理して、来週、行ってこいよ。
―違う!違う!違う!あたしのせいなんだよ!
―でも!!

俺は大声で叫んだ。
彼女は泣くのを一瞬止めて、またすぐに大泣きし始めた。
俺は頭をさすりながら、優しく話しかけた。

―でも、このままじゃ何も変わらない。
 何も、・・・変わらないんだよ。



・atasi視点



その夜は、何もなくただ二人で寄り添って寝ていた。
カーテンは開けっ放しだった。
でも、それ以上にあたしは彼の暖かいぬくもりが欲しかった。

そして、いつの間にか、開いたままのカーテンから、
光りが差していた。朝になっていた。

彼の姿は、無かった。

手紙の一枚も残さず、彼は姿を消していた。

あたしは、その日から一週間、
お風呂も入らず、髪の毛もとかさないで、
ずっとソファーで座り込んでいた。



思えば。



あの灰色のチャオの残像が残っていた。
あのとき、あたしを運命に巡り合わせてくれた、
飼っていたチャオも灰色だった。
今はペットショップで新しい飼い主を捜しているだろう。
利口だから、すぐに見つかるだろう。

あたしはずぅっと何かを引きずっていたのだろう。
ただ、その対象が変わっていただけなのかもしれない。
愛。
そう、1文字で固まるその原因が、とても大きかった。



そう・・・。



あたしは・・・。



自分の求める愛で人を傷つけてしまっていた。
自分のわがままで誰かが振り回されていた。



でも、もう迷わない。



さようなら。Mr.Beloved・・・。



バスの来る音がした。
またあのこぎれいな部屋でチャオを育成するだろう。
その時はあたしは、
これまでであった、愛をくれた全ての人のために、
最大の愛を詰め込んであげよう。
LEVELなんか、どうでも良い。

誰かを愛して、生きていく。

それが、私の道。



・ore視点



あの後、俺はそこら中をバイトで稼いだお金を使って、
移り住んでいたが、
第一回死刑者に彼女の名前がないことを知って、
夜中、家に戻ってきた。



彼女は、いなかった。



俺は泣かなかった、悲しくもなかった。
ただ、かすかに笑っていた。
何か、引きずっていたモノが無くなっていた。
それは彼女といたから無くなったのかもしれないし、
彼女と別れたから無くなったのかもしれない。
まぁ、どちらにせよ、良いのだ。



・・・バイバイ。



とある日。俺は急いでおろしたての服に着替える。
バイトに遅刻しそうだ。
きっとあの姉貴分が角を生やしている。

俺は勢いよくドアを開けて、外に出た。
今日はいつも以上に働けそうな気がした。

ちょうど、今日からは新入りの女子高生が来るらしい。
多分、あいつでは無いだろう。
あいつは施設で本当に優しい人に見守られながら育っていくだろう。
でも、そうだと良いなと、心では少しばかり、思っていた。

途中、明け方のセブンイレブンで熱いコーヒーとおにぎりを買って、
雲が何もない空を見ていた。

―東京にも、こんな空があるもんだな・・・。

東京は汚い、まぶしい、そして、切ない。
俺はまたその生活に飲まれ、また愛しい人を作るだろう。
俺はいつか思った言葉を書き換えた。



東京には1200万人の天使と、1200万人の悪魔と、



たった一人の愛すべき人が・・・確かに、いる。



fin

このページについて
掲載号
週刊チャオ第257号
ページ番号
5 / 5
この作品について
タイトル
Mr.Beloved
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第252号
最終掲載
週刊チャオ第257号
連載期間
約1ヵ月5日