第18話「皇帝と、女王」・後編
第18話・後編
【神野】「太陽より生まれ出て、闇は全てその光に伏す・・・」
【永川】「天は平伏し地は仰ぎ、生は悉(ことごと)く戦慄す・・・」
2人は呪式を最初から唱えると、
【神野】「舞えよ不死鳥!フェニックスレイ!!」
【永川】「駆けよ銀狼!カイゼル・ジルヴァンヴォルフ!!」
両者、必殺技。
巨大な光と闇が、それぞれの形を成して、向かっていきます。
【川島】「な、何よあれ・・・大きすぎるじゃない・・・ホントに、あたしらと同じ魔術なの・・・?」
それは、彼女が今まで見てきた「魔術」とは、全く違うスケールのものでした。
2人の放った不死鳥と銀狼は、すれ違ってそれぞれのところへ。
そして、それぞれのところに直撃し、大きな轟音が響き、辺りは衝撃に包まれました。
【カナル】「どうなったっ!?」
【永川】「・・・!?」
【神野】「・・・そんな・・・」
2人とも、覚悟していました。互いの力はよく知っています。ところが、無傷。
・・・カイゼル・ジルヴァンヴォルフはトリシャが、フェニックスレイはサリアが盾になって、パートナーを守り真正面から受けていたのです。
【永川】「サリア!」
【神野】「トリシャ!?なんで!?」
【トリシャ】「だって・・・あたしは、由希恵のパートナーだから・・・」
【サリア】「パートナーを置いて逃げる訳には、いきませんからね・・・」
そして、2匹が倒れました。
【審判】「トリシャ及びサリア、失格!」
【神楽坂】「・・・・・」
【カナル】「正直、俺には・・・出来ねぇな・・・」
気がつくと、会場は静まり返っていました。
全員が息を呑んで、その行方を見守っています。
【神野】「ごめん、トリシャ・・・そんな当たり前の事を、あたしは忘れてた・・・」
【永川】「サリア・・・僕は君を、心から信頼しきれていなかったのかも知れない・・・」
そう言いつつ、今度は2人がゆっくりと互いに向かって歩いていきます。
【サララ】「何をする気なんでしょう・・・?」
【ヴァレイユ】「もう必殺技は撃てないはず・・・最後は剣・・・?」
2人は、ちょうど握手をするぐらいの距離で、止まりました。
【神野】「ふぅ・・・」
【永川】「さて、と・・・」
数秒、静寂が流れて、その直後、
【神野】「フェニックスレイっ!!!」
【永川】「カイゼル・ジルヴァンヴォルフっ!!!」
同時に絶叫しました。
至近距離で、互いに最後の死力を尽くしての必殺技。
刹那、巨大なエネルギーの球が2人を包み、次の瞬間、爆音と衝撃波が会場を揺さぶりました。
・・・・・。
【木更津】「ど、どーなったの!?」
しかし、土煙に包まれて、2人の姿は見えません。
【牧原】「しかし、かなわんなぁ・・・あれでまだ必殺技を撃つんかいな・・・」
【ゲオルグ】「しかも至近距離と来たもんだ・・・」
【サヴィエ】「まさかここまでとは、正直思いませんでした・・・」
【村井】「なんか、あのペアと戦ってた自分が恐ろしいって感じ・・・」
ざわめく会場。しかし、土煙はなかなか収まりません。
しばらくして、ようやく晴れてきました。
そして、そこにあった光景は。
【神楽坂】「・・・た、立ってる!?」
【川島】「・・・ふ、2人とも・・・」
なんと、それでもなお、2人は同じ位置に立っていたのです。
しかし。
【神野】「慶十郎・・・ありが・・・と・・・う・・・」
神野が、前の方へ崩れ落ちました。そこには、永川がいます。
なので、地面には倒れず、ちょうど永川に寄りかかるような格好になりました。
【永川】「礼なんて・・・要らない・・・の・・・に・・・」
神野には失礼ですが、彼女の体重を支える力は永川にはとっくにありませんでした。
将棋倒しのような格好で、2人は地面に倒れました。
2人の目に映るのは、ただ広い青空。
【神野】「慶十郎・・・起きてる・・・?」
【永川】「ああ・・・にしても、久しぶりだね・・・空を見るのは・・・」
【神野】「そうね・・・
あたしらが地上でこんなバカやってても、太陽も月も星も、何事もなく回ってる・・・」
【永川】「そして空は、その色を変えずに見つめてる・・・か。」
【神野】「ええ・・・」
2人はそのまま静かに、青い空を見つめていました。
数分後、審判のアナウンスが。
(といっても、マイクはありませんが)
【審判】「神野由希恵が倒れる方がわずかに早かったとみなし、勝者は永川慶十郎・サリア=ハージェスペアとします!
よって、優勝は永川・サリアペア!!」
その瞬間、会場のざわめきが一気に歓声に変わりました。
【神野】「決まったみたいね・・・」
【永川】「だな・・・」
しかし2人は、仰向けに倒れたまま、ただその歓声を聞いているだけでした。
まるで、他人事のように。
続く