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ダーカは夜を翔た。
彼の運動神経は、
このチャオになった後、強く、早く、飛べるようになった。
コウモリの翼がついたダークカオスチャオは、
不気味だった。
しかし、月光に照らされた彼は美しかった。
彼の真下には赤や黄色の光が埋めいている。
それもキレイだった。
しかし、それはあくまで夜だけの、限定の美しさだった。
…彼もまた、そうなのかもしれない。
彼は、すっと、地上に降り立った。
公園だった。
どこかで、だれかとだれかが言い争っている。
『あなたねぇ!よくもそんな女と!』
『うるせぇよ!お前みたいな女はもう良いんだよ!』
『な、…!悔しい!』
びゅっ、と捨てられた何かが、
ダーカの頭に当たった。
バラの花束だった。
「…。」
彼は、また無言で、空中に躍り出た。
その頃…
「きゃっ!」
「おい、ねぇちゃん、可愛いじゃなぇか。」
「はは、ホント、こいつ、いいぜ、そそるな。」
「や、やめて!」
「へへ…もう、とまらねぇなぁ…。」
一人の女性を二人の男が囲んでいた。
女性は押し倒され、男はブラウスのボタンを一気にはずす。
ボタンのいくつかは取れ、道に軽い音を出して落ちる。
男は下着に手をかけた。
もう、襲われることは確実だった。
…が。
その時、夜のまぶしい光に照らされた空から、
闇色のコウモリが降り立った。
そのコウモリは迷わず、
一人の男の顔面をけりつける。
不意打ちが効いたのか、その男は失神した。
「っ、てめぇ…!」
もう一人の男も、彼に向かって拳を入れようとする。
しかし、彼は瞬間にその男の腕を掴み、
自分ごとひねって、遠心力でその男を吹き飛ばした。
ドン、という鈍い音がして、
その男は目を開けたまま、地面に伏せる。
壁にでもぶつかったのだろう。
女はその光景をじっと眺めていた。
はだけた衣服からはわずかに下着が見え隠れする。
そして、それらを倒したコウモリは女性に近づく。
ハエが集まる街頭の下、
薄暗い小道に、
ダーカは、立っていた。
「…!」
女は驚いて、そのチャオを見る。
まさか、チャオが、あんな巨漢を倒すとは思わなかったのだろう。
が、驚いたのは彼女だけではなかった。
「…!」
ダーカは、この女性に見覚えがあった。
昨日も夢で会った、彼女、だった。
「あなた…が…助けてくれたの…?」
「…。」
「…ありがとう…。」
女はふと、そのチャオを抱える。
彼はどこかで負ったのか、
顔に何かが刺された傷跡があった。
彼女の部屋は前と変わらず、こじんまりとしていた。
ただ一つ変わっていたのは、
部屋の中心にある写真立てが倒れていた。
ダーカはすぐに悟った。
彼はしばらくその写真立てを見ていた。
「…あ、倒れているから気になるの?」
「…」
「あんまり…見ないで…ほしいな。」
女性は泣いているような声だった。
彼女はすぐにバスルームに入っていった。
ダーカはソファにもたれかかる。
彼女の名前も、…思い出せない。
いつからか、分からない。
が、確実に女性の名前は忘れてしまった。
彼女との思い出も…どんどんと…。
俺はもうカオスチャオになるのか!?
身体だけじゃ、物足りないのか!?
ナニガホシイ!?
オレノココロガ!キオクガ!キエテイク!!
ダーカはソファに倒れた。
何も考えたくなかった。
…それにしても、久しぶりの、暖かい家だ…。
ダーカは目を閉じた。
その頃、その部屋のあるアパートを見る、
一人の男が居た。
「…あれが、お前の弱点か…。そうか…。」
「明日、お前の期限が切れるだろう…ダーカ。」