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後日。
彼はすぐにその部屋を出た。
申し訳なかったし、
それ以上に自分自身にひびを入れてしまいそうで嫌だった。
明け方過ぎに、
やはりダーカはいつものようにゴミ捨て場の奥で眠っていた。
と、彼の顔に何かが落ちてくる。
水だ。
その日は、雨になった。
ダーカは、屋根のあるゴミ捨て場に身を入れた。
そして、黄昏れた。
雨水は屋根からしたたれ、
ゴミ捨て場特有の編み目をすっと通り抜けていく。
いつもは白い雲が紫がかった灰色になり、
ダーカもまた、闇色に自分を染めていた。
身体も、……心も。
この日はすぐに夜になった。
ダーカは雨が打ち付ける中、空に翔た。
ダーカには雨がよく似合っていた。
彼の目は角から落ちる雨に濡れて、ぼやけて、
その頭の炎は水の中を消えずに揺らめいた。
そして、そんなうるさい水の中、
銃声が、聞こえた。
「!」
ダーカは何か嫌な予感がして、
何故か知らないが「彼女」の部屋に向かった。
嫌な予感は、当たっていた。
「ふふ、ダーカ君、迎えに来たよ。」
「…」
「キミを生き返らしたのは俺だ。
そして、もう一度彼女に会えたのも…。」
彼女はソファーで眠っていた。
殺しては…居ないようだ。
「さぁ、キミは来るのさ。
その女は銃声を聞いた瞬間、倒れたよ。
でも、次は、彼女に…当てる。お前の決断次第だ。」
「さぁ、どうする…?」
男はダーカを見た。
ダーカはとっさに男に向かった。
「そうか…それが答えなら…。」
男は足を大きく振りかぶり、
ダーカに顔面を思い切り蹴った。
彼は大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかる。
「俺はこの女に警察に呼ばれた。
俺も時間がない。貴様を気絶させ、持ちかえるだけだ。」
男は大きく飛んで、うずくまるダーカに近づく。
と、ダーカも急に起きあがり、
男のみぞおちを空中で殴った。
「ぐ…!」
男は少し体制崩すが、すぐに起きあがり、
ダーカの角を掴んだ。
「さぁ、来い!お前なんか、この女は愛していない!
愛しているのはお前の過去だけだ!」
「!」
ダーカは止まった。
確かに、この男の言うとおり、
それこそが正しいのかもしれない。
と、その時、ダーカはふと自分の顔の傷に触れた。
何かが刺さったような痕…。
…!
バラ…だ…。
『あなたねぇ!よくもそんな女と!』
『うるせぇよ!お前みたいな女はもう良いんだよ!』
『な、…!悔しい!』
そうだ…あのときの…
「私、バラの花束が欲しいんだ!」
「また明日も…会ってくれるよね!」
「また、明日も…」
ダーカは男の手を離した。
「なっ…!」
「オマエニ、アイヲ、カタラセナイ」
ダーカは翼を広げ、すさまじい形相で、
男の顔面に飛んだ。
そのスピードと力のこもった体当たりは、
男を吹き飛ばした。
勝った。
「…。」
ダーカは、少しその場にとどまっていたが、
ふと、思い出して、
女を助けた路地に出た。
「ん…。」
女が起きると、多くの警察官が家にいた。
いくらかは気絶した男を運んでいる。
いくらかは彼女の周りにいて、起きあがるのを待っていた。
ダーカの姿はなかった。
「あのチャオは…。」
女は辺りを見渡す。
…どこにも、居ない。
警察官が帰っていったあと、
彼女は一人ソファーにまた座り、
死んだ彼のことを思い出そうとした…
その時、
彼女は、机の上を、見た。
そこには、倒したはずの写真立てがたてられていた。
笑顔の…彼女と、彼の顔と…
いつかの一束のバラが添えられて。
fin