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明け方の東京は真実が見える。
女と男が戯れた街には沢山のゴミが捨てられていた。
そして、そのゴミの中に、
無愛想な目で居座るチャオが居た。
『LOVE PHANTOM』
彼は追われていた。
数年前、「彼」は死んだ。
交通事故で、即死だった。だが…。
『お前はまた生きるんだよ、新たな命として』
彼は、気がついた。
カオスチャオになっていた。
ダークの、だ。
彼は自分の運命を悟った。
自分は、死なずに、魂だけをチャオに移された、と。
彼はうなだれも、カナシミもしなかった。
ただ、その場から逃れたかった。
彼は身を翻し、その廃屋を飛び出した。
『おい!どこへ行くんだ!おい!…』
…
「!」
彼は起きあがった。
…嫌な夢を見た。
彼の寝ていたゴミ捨て場にはまた明るい日差しが降り注ぐ。
今日もまた一日生きていられた。
そう思った。
しかし、彼は、またゴミ捨て場に潜った。
実際に活動するのは夜だった。
この身体になってからすっかり夜で生活することが、
定着化していた。
それはダークという名前の行動が夜に多いからか、
ただ単に「dark(暗い)」だからなのか、
それとも、逃げてることで臆病なだけなのか。
理由は彼にとって、どれを選んでも良かった。
ただ、彼の中で確信していることがあった。
…あの廃屋にはもう戻りたくはない。
彼はゴミ捨て場の奥にうずくまる。
日当たりが良いのか、虫は一匹もいなかった。
そして、ゴミが持っていかれた後は、
風も吹いてきた。
…眠くなってきた。また寝よう。
彼はそう思い、目を閉じた。
…最近、彼の頭の中には一人の女性しか思い浮かばない。
それはかわいらしく小さい、「彼」の隣に座っていた。
その時の「彼」の残像は、日に日に消えつつある。
今は自分の名前も「ダーカ」としか、思い出せない。
自分の出身地、大学、学歴、親、友達!…も
何もかもが…何もかもが…忘れてきている。
でも、一人だけ、消えない女性。
彼女は彼の夢の中で口を開いた。
「私、バラの花束が欲しいんだ!」
「また明日も…会ってくれるよね!」
「またね!」
後日、俺は血まみれで道に倒れた。
そして、…。
目が覚めた。もう夜だ。
ダーカの頭はまだ何かが渦巻いていた。
…このままじゃいけない。
そうは思うが、なぜだか、彼女を見ると忘れたくない、
思い出していたいようにも思えた。
たった一人の、大事な恋人。