4A
俺は金の針を持った。そして、俺は自分の心臓を刺した。
二人で工場から出た後、振り向いて亜子の顔を見た。
亜子の顔はよく分からなかった。
何が混ざっているのか、全く、分からなかったのだ。
だから、…俺は簡潔に、一言だけ言った。
「お前が好きなように…すれば良いんだよ。」
嘘。俺は嘘をついた。
でも、もう、亜子を抱くことは出来ないと思った。
もう、亜子の羽は伸びきっていて、
風を感じ、虹を超え、川を越え、そして、羽は天を駆け抜けようとしていた。
多分、亜子はあちらに行っても、厳しい人生は送るだろう。
虐待も受けるかもしれない。
でも、ここにいるよりは、生きていられる。素敵な男性もいる。
亜子はスラムの人間のわりには、綺麗だった。
絶対、男性を引きつける女性だ。彼女はそう言う運命で生まれてきたのだ。
「ありがとう…。」
俺は一言そう言った。
そして、そこの工場の人間に軽く話しかけた。
「この広告の連絡先はどこだ?」
……。
一週間後。
亜子はすっかり支度をすませた。
場所も分かる。その工場の人間はいい人たちらしい。
多分、彼女は幸せになれるのだろう。…ここにいるよりも。
きっと、彼女は俺といたことを忘れるだろう。
「ありがとう…。」
「ゆー…。うん、ありがとう。本当に…。」
「…ありがとう、きっと、好きだった。」
「…うん。」
「俺のことはすぐに忘れろ。これからお前は富裕者の人間に近づくんだ。」
「…うん。」
亜子は家を出る。そして振り向いた。
数メートル歩く。そして振り向いた。
数十メートル歩く。もう振り向くことはなかった。
……。
俺は1人になった―ヒーローカオスチャオと、いつかの赤いチャオはいるが、
心にはもう誰もいなかった。
分かっていたから、こうなることは分かっていたから、悲しくはなかった。
悲しくはなかったが、…。
もう俺は金の針を亜子に使ってしまった。
そして、俺の金の針はもう…存在、しない、のだ。
俺はもはや、この世界にいる必要は、無い。
最近ジャムしか食べていない俺には久しぶりに見ることとなった、
一本の、銀色の包丁を、取りだした。
そして、2匹のチャオに呼びかける。
「なぁ、…海へ行こう。」
あの日刺さったとげを抜かなきゃとりあえず俺たちに未来はない
行きすぎているんだ胸の奥まで…吸い出して欲しい
抱き合って何かを誓いたいけれど それって半信半疑じゃない?
微笑みの奥には悪魔がいた それじゃせつないや
愛が 空中で獲物を狙うハゲタカなら 防ぎようがないね
それじゃ何を分かち合おうか…
海の果ての果てにキミを連れて
銀の砂浜でこの胸に銀の引き金引かなきゃ
キミは僕のことを忘れるだろう
EASY GO 今 燃やしてくれ サンシャイン
あのことで頭がいっぱいな夜は
ズブロッカでは消せない
人が海に戻ろうとして流すのが涙ならしょうがないね
それじゃ何を信じ合おうか…
海の果ての果てで恋も欲望も
波のように砕け散って幻のようになれば
僕はキミのことを忘れないだろう
潮騒ぎの銃声胸に響いて
長い夢の終わりを迎えるだろう
EASY GO 今 燃やしてくれ サンシャイン
砂浜に着いた俺は金色の代わりに銀色の針を抜いた。
夕日をバックに、俺は首にそれを当てる。
綺麗な光景…なのだろうか。
古典世は、同じような色と色がラップすると、美しさは際だつという。
ならば、今は同じ赤色で美しくしよう。
汚い人生を送ってきた俺の最初で最後の餞。
俺はチャオ2匹を少し笑って見つめた。
深呼吸をする息は深く。
俺はあえて『西』を向いて、下をしばらく見ていたが、
刹那に、首を天に向け、首横に思い切り銀の針を突き当てた。
(end 3)