3B +α
「…。」
「ん、あぁ、広告か…。…。…なるほど。」
「ねぇ、ゆー。…ちょっと興味があるの…。」
亜子は俺を猫の目でみた。
…。
ちょっとどころではない。
俺はそう思った。
亜子の目つきが違う。
俺は驚きと共に、なにかずどんとのしかかるのが分かった。
クリスマスツリーの沢山のキラキラと輝く飾りたちの、
一番の核心となるスターを見たときの感情とそれは似ていた。
俺はずっと裏切られていたような気がした。
亜子は結局そっちが夢であったのか、と。
俺と確かに何かを紡いでいたのは分かっていたが、
それ以前からもっと何か他のモノを紡ぐ準備をしていたのだ。
俺はさっきの亜子の唇の味を忘れていた。
俺の唇はもはや冷たい乾燥した風に乾かされ、すさんでいたのだ。
「…亜子。…行くのか?」
「うん…。私…一度でも良いから…。」
「そう…なら、募集要項、読んでおきな。」
三年と十ヶ月前、俺と亜子は出会った。
そして、たった一ヶ月前、二人はつながり、
たった一時間前、俺と亜子は精神的につながったはずだった。
「…。あ…。」
と、ふと、亜子が驚いたような息をついて広告を見たので、
俺はまたその忌まわしい紙切れに手を伸ばした。
『ただし、女性はもう貧困地域に戻ることは許されない。』
もう貧困地域に戻ることは許されない。
それは、いわば…そう、そう言うことだ。
亜子は俺の顔を黙ってみた。
その目はいつか、あのジャム工場の男の目を彷彿とさせた。
義眼のように動かない彼女の目。
瞳は黒いというより、黒ずんで見えた。
俺の黒さは…無限に続く、ブラックホール。
亜子の目は…希望を俺に対する申し訳なさから、無理矢理黒くしているだけ。
俺は舌を心の中で打った。
プライドや、意志や、社会や、愛や、欲や、希望や、譲歩や、色々なモノが混ざり、
俺の心に億千万の針をぶっ刺した。
つまりは…そう、
『長い夢の終わりにピリオドを打つ』衝撃の名言が、俺を襲った。
「ねぇ、ゆー。…私はどうすれば良いの…?」
「……。」
「ねぇ…ゆー…。」
…俺を燃やしてくれ。もう一度燃やしてくれ。
つらい過去も、先々の未来も、全てジャムにしちゃって、
ぐちゃぐちゃにしちゃって、燃やしてくれ。
燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃やせ!
そして、俺に一本の金の針を与えてくれ。
亜子の未来を指し示し、そして、俺の心臓を突き刺す金の針を。
『Determine their future』 ~未来を決定せよ。
4A・俺は金の針を持った。そして、俺は自分の心臓を刺した。
4B・俺は金の針を持った。そして、俺は亜子の未来を指し示した。