2B
次の日、俺と亜子はいつものように工場へと出かけた。
俺たちはいつものようにジャムをむさぼった。
途中で、ジャム工場の人達が、
赤いピュアチャオを必死に追いかけている様子が目に映ったが、
俺たちを即行で駆け抜けていったので無視しておいた。
いつものように工場に着く。
ここからは亜子と俺は違う場所で作業をする。
亜子は紡績工場。
俺は力仕事のいる野外での作業だ。
朝日が浴びる中、俺は木材を必死に運んだ。
持っていく場所は富裕地区と貧困地区を分ける川である。
俺はそこからたまに流域面積が広いその川の、
遠く先に見える緑色の光る都市を見た。
富裕地域だ。
「…ちっ…へへ。」
俺は舌を出し、苦笑いをして、
元来た道を引き返した。
今ある道が、俺の運命だと俺は思った。
それこそがあんなちっぽけな都市の楽園なんかより、
よっぽど良い楽園だと思った。
工場が見え始めた。
今日の夕方、俺は昨日の夜言い忘れていた言葉を言おうと思った。
あの中には亜子がいる。
そして今日の夜もまた彼女と同じ家で過ごすのだろう。
そうして、笑顔で工場を見た。
瞬間だった。
すさまじい爆音が辺りに轟いた。
俺は思わず周りを見渡す。
…正面を向いたとき、俺は愕然とした。
工場が、工場が、爆発して、消え去っていた。
…工場が消え去ると言うことはつまり、
その中にいた人々も…。
「…亜子!」
俺は思わず自分の一番愛しい人の名前を叫んで工場へ続く坂を走った。
走って近づけば近づくほど、リアルが見える。
俺はだんだんと視界をぼやけさせながら、迫り来る工場の残骸を見た。
俺は急に力がなくなり、そこにへたり込んだ。
何か最初からあきらめていたモノが改めて現実になった時の、
独特の空虚が俺を襲った。
夕方、工場にいた人間全員が死んだことが明らかになった。
俺は亜子の壊れたネックレスを形見としてもらった。
当然だが、形見など何の役にも立たない。
むしろ、自分の悲しみを深く深くしまって、そして、幾度と無く、
今日の光景を瞬間をフラッシュバックさせるだけなのだ。
家に帰っても、今日は誰もいない。
ライトカオスは抱かれる人間もいないままずっと座っていた。
…これが「運命」なのだろうか?
どうしようもない、逃れようもない運命だったのか?
俺は自問自答を繰り返した。
答えは出ない。
相手のいないままモーテルに泊まるかのような空白の頭をかきむしり、
俺は今日もまたジャムに手を伸ばした。
明日からは職を変えないといけない。
新しい工場で働かないと、この世界は、生きてはいけない。
さぁ、
明日は…どこへ行こう…?
(end 1)