2A
次の日、その幸せはあっさりと壊れる形となった。
スラムとはこういう街なのだろうか?
…答えはイエスだろう。
事件があったのは朝だった。
その日も俺たちはいつものように工場に出かけようと、
毎度のようにジャムに手を伸ばしていたときだった。
亜子が俺に話しかけようと前のめりになった瞬間、
一匹の赤いチャオが入り込んできた。ピュアチャオらしい。
最近のチャオは赤色属性が多いという。
退化か、進化か、それは分からない。
俺の周りも最近赤色が多くなっている気がする。
そうして、『赤井』亜子はおびえているチャオを介抱した。
それは逃げてきているみたいだったので、
亜子はそのチャオをさっとタンスの裏に隠した。
と、今度は茶色い肌をした男が数人窓から顔を覗かせた。
見たことある人たちだと思ったら近くのジャム工場の人達だった。
彼らは俺と顔見知りというのもあるのか、穏やかな口調で、
「なぁ、この辺にチャオがいたのを見かけなかったか?」
「…いや、見てねぇな。」
「そうか…いやぁ、困った。あれで『3本』は出来たのに…。」
…『3本』…?
俺の思考回路は一瞬止まり、
言葉が思い浮かばないまま、彼らに、質問を投げかけた。
「へぇ…。…は?…お前ら…?」
「ん?何か詰まったことでもあったのか。」
「…おまえら、チャオをどうするつもりだったんだ?」
「え…?おまえ、知らなかったのか…。…そこにあるじゃないか。」
……。そこにある…?
俺が周りをきょろきょろと見ていた瞬間、
男は冗談でも言うかのような軽い口調でこう言い放った。
「ジャムだよ。」