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俺はカーテンに隠れながら、
チャオたちの話を聞いていた。
―おい、ここでも何か声が聞こえてこなかったか。
―気のせいだと思うが・・・。
―まぁ、ボスの命令で全員「殺せ」ということだからな。
―・・・ボスもやりすぎだとは思うが・・・。
―・・・ん?こいつも連れていくか。
―・・・!何でここにチャオが・・・。
―ここに誰かがいたのかもしれない。まぁ、連れて行くぞ。
そして、がらがらといってドアが閉じた。
しかし安心できなかった。
むしろ恐怖だった。
見つかったら死ぬ。
そういうことだ。
俺は妥当な結論をサヤカに伝えた。
―この窓から早く逃げよう、サヤカ。
しかし、サヤカは無言でうつむいた。
雰囲気からして俺の妥当案には乗り気ではないらしい。
次にサヤカがつぶやいた言葉で俺はその理由を知った。
―スー・・・。
そうか。サヤカのチャオの名前だ。
俺はさっきチャオ達がサヤカのチャオを連れて行ってしまった。
サヤカの9割の雑談内容が彼女だったことから考えると、
相当大切なものだったらしい。
とは言っても、冷静に考えると、
サヤカのチャオ・・・スーを助けることなんて不可能だ。
なぜなら、自分たちでさえ安全ではないのだ。
―でもさ、サヤカ、俺たちだって危ないんだ。諦めよう。
―・・・いやだよ。私はここに残る。助け出さなきゃ。
―あぁ?何言ってるんだ。死にたいのか?
―死にたくはないよ。でも、スーは・・・。
サヤカは涙目でこっちを見た。本気らしい。
俺はしばらく考えた。
―・・・ちっ、俺も残るよ。
サヤカは目を丸くして俺にきいた。
―え?いいよ、安全な所じゃないんだし、ここならまだ・・・。
―いや、なんか一人で逃げるのが恥ずかしくなってきた。
―なんか、嘘ついてる感じがするんだけど。
―違うっつの。まぁとりあえず、行き先を探るか。
―どうやって・・・?
―尾行。
三寒四温の寒になってきたのだろうか。
いや、緊張のせいかもしれない。
いつもは友達と笑いながら通る廊下。
そんなところが生死の境目となるとは思ってはいなかった。
前方にはチャオとスーがいた。
なにやら話しているようだ。
きっと、スーはとまどっているのだろう。
―なぁ、サヤカ・・・。あれ?サヤカ?
そして、後ろを振り向くと、サヤカがいなかった。
代わりに、銃を持ったチャオが一匹いた。
フードこそかぶっているが漆黒の色に大きな二本の角。
見たことがある、これは突然変異のカオスチャオ。
しかもたちの悪いダーク系だ。
戦慄が走った。
銃声がした。
俺の右ほほをたれなれるものと同じ色をした彼の手には
ライフルが握られていた。