8(終)
8
結局、それから1年が過ぎた。
RBは架空だったが、お金は、自己暗示をかけた富豪のものだったらしく、
結局、稼いだ金は俺の所に舞い込んできた。
つまり、最近はちょうど1年間、働いていないことになる。
いや、むしろ、もう働かなくても…。
…と思ったら、家では思いの外。亜子に色々なことをやらされている。
子供の世話、チャオの世話、苺の栽培…。
泣きたくなるときもあるが、それはそれで楽しいものだ。
…と、最近、子供が俺にきくのだ。
「何してたの?」って。
俺は笑ってこう答える。
「ヒーロー、してたのさ。」
亜子はそれを聞いて優しそうに笑っていた。
ヒーローカオスは幸せそうに佇む。
「自称」ヒーローも、ほほえむ。
貧困地区に、雨が上がり、日差しが照りつけてきた。
感情の、オーバーラップだ。
Fin
【アルバム5】唖夢の強さ
強さって何だろうか。
そう考えて思い浮かぶ1人の人間がいる。
彼女は常に自分の意志で動き、夢が壊れても、
すぐに新しい世界を求めて、また旅をする。
ドライな発泡酒がいつまでも流行るように、
ドライな人間は常に尊敬される。
それはその人がそれだけの傷を受けても、また立ち直るからだと思う。
唖夢は、外国で接客業をしてるらしい。
セクハラをされて、上司を半殺しにして、また仕事を首になったそうだ。
貧困地区に届く真っ白い手紙がヤケに新鮮である。
亜子は手紙を早く捨てろ、とイライラ気味で答える。
俺はその表情の可愛さ見たさ故に、
また、それをわざと見えるようタンスにしまった。
…当分、唖夢には「ある意味で」お世話になりそうだ。
【アルバム8】結婚式
俺たちは結局無事に家に帰ってきた。
もう、人を殺すことはないだろう。
そして、お金は、残っている。
…考えた俺は亜子と結婚式を挙げてみることにした。
それは式場もない。おいしい食べ物もない。
あるのは手作りのイチゴケーキと海で釣れた魚、大切な花嫁。
でも、それが一番の宝物だった。
だがしかし…
「ねぇ、お父さん!ケーキ食べたい!」
「お、おい…まだ、結婚式を始めてもいないのに…。」
「ふふ、せっかちなお客さんね。」
結局、それは虚しく(?)、子供の晩餐会と化し、
指輪の交換すらなく、食べるだけで、結婚式は終了した。
俺と亜子は思わず苦笑いだ。
…最近、夜に起き出す子供のせいで、
周に一度くらいしかエッチも出来ない。
亜子も少々ストレスが溜まっているようだから、
何とか解放させられたらなぁとは思っているのだが…。
でもまぁ、俺は彼にとっての唯一のヒーローだ。
…優しくしないと、な。
【アルバム 12】マスター
ある日、ぶらりと俺と亜子と子供で富裕地区によった。
もう、富裕地区には自由に行き来が出来る。
俺たちはなじみの道を街に向かって歩いていく。
と、一つのオープンカフェで見覚えのある顔があった。
「…橋本。」
「また、カフェを始めたんだね。
…もう、元通りなんだね。」
「あぁ…。」
マスターは、忙しそうに、客に接客をしている。
政府にばれること覚悟でオープンカフェをする彼は、
俺にとっては尊敬の人間だ。
ふと、俺と目があった。
彼は驚いているようにも見えたが、やがて、こちらに近づき、
笑って「いらっしゃい」と呟いた。
あぁ。そうだ、橋本。
やっぱり、隊長より、マスターの方が、似合うぜ。
【アルバム13】苺のジャム
二人でまた苺のジャムを作ることにした。
売り物には出来ないかも知れないが、
いつかはきっと、貧困地区の人々に苺ジャムを伝えたいと思う。
赤いチャオ達は今日も一斉に苺を植える。
まだ、彼らの需要は無くなりはしないが、
最近は、俺の投資もあり、苺を作る農園が増えた。良いことだ。
「私たちの幸せを、チャオにも、あげたいな。」
亜子がいつかそう言った。
俺は笑って、こう言う。
「あげれるさ。有り余るくらい、沢山あるんだから。」
チャオのジャムが現実から空想になり、
苺のジャムが夢から現実になる。
そんな日が来ることを待って、俺の人生はまた歩き出すのだった。