7B
7B
「…亜子。」
「お願い…。」
俺は銃をしまった。
そして、橋本の銃をけっ飛ばした後、
橋本に話しかけた。
…まだ息はあるようだ。声は聞こえているだろう。
「…俺はお前の行動を許そうとは思わない。
だけど、その心を少しでも、暖めたいならば、
俺は協力しよう。…提案がある。
その政府の高官を最後に、俺たちで、仕返しをしないか?」
「…正気か?
俺を背後につけたら、俺は間違いなくお前を殺すぞ。」
「俺かって、最初はそんなつもりはなかった。
だが…お前は絶対に、その暗闇から抜け出せる。」
「抜け出せる…?
バカ言うな。俺の一生はもう崩れ去った。
いま、殺してくれても、俺はきっと後悔しない。」
橋本は、腹を上に寝そべった。
どうやら、腹の横隅を撃たれているらしい。
「星が綺麗だ。彼女も星好きだった。今はもう、
…あいつ自身が、星になったけどな。」
「…星になっている彼女に怒られますよ。」「…亜子?」
「なんだい、お嬢さん。」
「あなたの彼女さんは、あなたを助けるために必死になったのに。
あなたは彼女に生かしてもらっているのに。
それを、あなたが自分で捨てて良いと思っているの?」
「…。」「亜子、止めろ。」「…でも、でも…。」
……
『…なぁ、お前、何で名前を教えてくれないんだ。』
『私が死んだとき、あなたの記憶から消えるため。』
『…冗談か?』『本気よ。』
『…でも、俺はお前を絶対に忘れたりなんかしない。』『ホント?』『あぁ。』
『なら、一つ約束して。』
『…?』
『私がどんな死に方をしても、あなたは絶対に、人を恨まないでね。
私をここに追い出した元彼も、
あなたの腕を切った機械も、
傷つけた人も、
そして、未来で私を殺した人だとしても。
あなたに、人を傷つけるのは、似合わない。
私はあなたに大切な人でいて欲しいから。お願い。』
『…。
あぁ、…分かったよ、約束しよう。』
『ありがと、…一緒にいようね。』
『…星が綺麗だな。』
……
「橋本…?」
「…。」
「橋本!おまえ…立てるのか…?」
「…死にはしない。病院に行くだけさ。」
「病院…」「あぁ…自分の命を無駄にしたくないだけさ。」「…。」
「俺は…。」
橋本は脇腹を抱えながら、
俺の方を向いて、穏やかに口を開いた。
「俺は、もう、政府に復讐などしない。お前らにも、だ。
俺はこれからも生きていく。誰も傷つけずに、生きていく。
俺に残された道はそれだけしかない…。それだけしか…。」
「…十分だ。」
「そう言ってくれると、ありがたい。
…俺はもうお前らとは会わないだろう。
じゃあな。」
彼はよろよろとホテルを歩いていった。
多分、死にはしないだろう。
どこかで、また、彼は静かに余生を過ごしていくのだ。
……
“re-start”
さよならで別れを告げた昨日
ならば 今日は何をすればいい?
いやちゃんとあるんだ やるべき事は
あなたのグチを聞いてあげないといけない
つまらない宿題を終わらせないといけない
それが義務じゃなくて ちょっとした楽しみになればいいのになぁ なんてね
愛は存在しなくて触れなくてそう有名なアーティストは言うけど
ゼリーみたいに冷たくておいしいものの方が僕は嬉しいや
嫌なことはそのまま 別にさ 許されることだろう?
何かを苦しいと言えるときは
きっと 僕が強くなっているときだよな?
気分が良い天気 震える影をつれて
あなたを海に連れていかないと行けないな
優しい子守歌を子供に歌ってあげないとな
もしこれが最後なら儚い幸せな思い出だけど そうであっても良いと思った 今だけは
悲しいことを悲しいって言える時が一番大切な時間だから
わき上がるものはいつでも感情を高ぶらせるけど
楽しいこと 頭に思い浮かべられるようになるまで
ドライブして生きていこう 好きなものだけを乗せて
……
「あぁ、そうだ。…唖夢。」「何?」「…ありがとう。」
「…へへ、そんな、お互い様だよ、お互い様。
じゃあ、…私はもう行くから。」
「…どこへだ?」
「私は橋本と同じ道を歩きたくない。
あなたのその可愛い奥さんを殺そうとか、そんなことは考えたくない。
…でも、今の記憶が早く飛んで欲しいと思っている。
私、決めたの。外国へ行く。
そうして、違う世界で、違う人達と、生きていく。」
「…大丈夫なのか?」
「…大丈夫よ。私、強いから、さ。」
唖夢はそう言うと、自分の銃を掴んで、しばらく見つめていたが、
やがて、それをホテルの池に投げ捨てた。
そうして、唖夢は1人の女性として、
月の向こうの、新たな世界に、一歩を踏み出していった。
「クールだな…。…、ありがとう、本当に…。」
……