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寒い風がまた吹く。
月明かりに、倒れた1人の男と、
それを見つめる3人が映っていた。
俺は亜子の手をのけて、静かに口を開いた。

「だけど、俺は約束したはずだ。」
「…何を?」
「亜子、俺はお前を守らないと行けない。」
「…。」
「だが、橋本が生きていれば、お前はきっと狙われる。
 …俺もだ。俺は二人でいたい。
どちらが欠けても、俺は不幸せだ。」
「ゆー…。」
「亜子、許してくれ。
 お前の前で人を殺す姿は見せたくないし、
 「罪を犯した人間」への報復を掲げる、俺の暗殺業に嘘をつく事になる。
 だけど、…悪い…な。」

乾いた音が風に流される。
橋本はうつぶせになったまま、ぴくっと全身を動かしたが、

もう、二度と、動くことはなかった…。

「…このままにしておくの?」
「あぁ、そうだ。…唖夢。」「何?」「…ありがとう。」
「…へへ、そんな、お互い様だよ、お互い様。
 じゃあ、…私はもう行くから。」
「…どこへだ?」
「私は橋本と同じ道を歩きたくない。
 あなたのその可愛い奥さんを殺そうとか、そんなことは考えたくない。
 …でも、今の記憶が早く飛んで欲しいと思っている。
 私、決めたの。外国へ行く。
 そうして、違う世界で、違う人達と、生きていく。」
「…大丈夫なのか?」
「…大丈夫よ。私、強いから、さ。」

唖夢はそう言うと、自分の銃を掴んで、しばらく見つめていたが、
やがて、それをホテルの池に投げ捨てた。
そうして、唖夢は1人の女性として、
月の向こうの、新たな世界に、一歩を踏み出していった。

「クールだな…。…、ありがとう、本当に…。」

……

俺は呆然と彼女を見ていたが、
ふと、後ろで服を掴まれる感覚がした。
そこには、1人の女性から恋人になった、
月からの天使が俺を見ていた。

「…亜子。」
「…私、気づいた。
 ゆーがどれだけ大きな決断をしたか。
 ゆー。ありがとう。私の最初で最後の恋人。」
「夫…じゃないのか?」
「ううん、恋人。」
「そうか…そうだよな。俺たちって…。」

俺と亜子は歩き出した。
何もかもから解放されたふたり。
貧困な生活に逆戻りだけど、そこに不幸せは残っていない。

上手くいきすぎる生活なんて、幸せじゃない。
屁理屈だけど、…確かに俺たちはそう感じている。


【アルバム5】唖夢の強さ

強さって何だろうか。
そう考えて思い浮かぶ1人の人間がいる。
彼女は常に自分の意志で動き、夢が壊れても、
すぐに新しい世界を求めて、また旅をする。

ドライな発泡酒がいつまでも流行るように、
ドライな人間は常に尊敬される。
それはその人がそれだけの傷を受けても、また立ち直るからだと思う。

唖夢は、外国で接客業をしてるらしい。
セクハラをされて、上司を半殺しにして、また仕事を首になったそうだ。
貧困地区に届く真っ白い手紙がヤケに新鮮である。

亜子は手紙を早く捨てろ、とイライラ気味で答える。
俺はその表情の可愛さ見たさ故に、
また、それをわざと見えるようにタンスにしまった。

…当分、唖夢には「ある意味で」お世話になりそうだ。


【アルバム6】もう一度、いつもの場所へ

俺たちは結局無事に家に帰ってきた。
前とは同じように食生活も行かないし、
暗殺業は、やはり、続けていかなければならないのだ。

しかし、ここには仲間がいる。
俺たちの子供をずっと養い続けてくれた仲間が、
そして、何より、その子供が。
亜子が。チャオ達が。
ここにいてくれる。俺はそれだけで幸せになれるのだと思う。

子供には「ただの長い出張」と説明しておいた。
どうせ、貧困地区にRBは手を出すことはしないだろう。
彼らは立派にその任務を果たしたことになる。
富裕地区に入らなければ、俺たちは普通の暮らしをしていけるのだ。

さぁ、もう一度この場所で、
亜子たち、家族と共に、幸せを作っていこう。
俺の最大の仕事はそこにあるのだと思う。


【アルバム9】キューピット

結局、このヒーローカオスチャオというのは俺たちのキューピットになった。
よく考えれば、前々から家族だったんだし、
キューピットを超えた存在なのかも知れないが。

最近、彼が俺の飼う他の赤い普通のチャオを率いるのを見かける。
彼もそろそろ自分の偉大さ(?)を自覚し始めたのか。

ところで最近、
「ゆー。あの時のジャムは、チャオのジャムだったの…。
 ゴメンね。でも、あれは昔取っておいたものだから…。」
と、亜子がカミングアウトしたのだが、
例によってこのカオスチャオが、ふいに、戸棚から「チャオフード」なる、
赤い、人間には「毒な」野いちごのジャムを取りだしてきた。
俺は密かにそれを見る。…あの時のジャムと色が同じである。
…もしかして、あいつは…。

一週間後、俺は食中毒で仲間に看病して貰う羽目になった。
亜子は「用事」とかいって、しばらく俺の女仲間の家に逃走していた。
帰ってきたら、シめてやらねばならない。
にしても、あんなジャムで記憶を取り戻す俺って一体…。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第311号
ページ番号
23 / 29
この作品について
タイトル
diRty,ugly,and Black coffee
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第311号