6B
「そうして、次の日だった。
お前みたいな、「暗殺者」を名乗る男が、数人で俺を取り囲んだ。
…俺は縛り付けられ、
目の前で…あぁ、思い出したくない!!!
そうだ!
目の前で!
あいつは!あいつは!!!
暴行されて殺された!!!」
……
ストンと、周りの空気の熱が冷める。
橋本は、はあはあと荒い息を繰り返して、俺を睨む。
俺も少し熱を帯びて言い返す。
「そして、俺を利用して、
政府と「暗殺者代表」を相打ちにさせて殺す気だったのか?
そうやってお前は巧妙に、
二つの憎いものを一回でしとめる気だったのか?」
「そうだ。…お前が、何も知らず唖夢と結ばれていれば、
俺はまた新しい殺し屋を狙い、
睡眠薬と強力な自己暗示薬を投入するつもりだった。
そうすれば、過去が無いという自己を投影できるし、
記憶がないとさせて、俺に従えるのも、楽で仕方がない。
だが、お前はもう知ってはならない真実を知った。」
「…俺は第一貧困地区に住んでいたが、そんな奴は周りにはいなかった。
そいつらだけが悪かったんだ!
だから、考え直してくれ!お前は間違っている!」
「嘘だ!
政府も、貧困地区の野郎も、みんな腐っている!
俺はRBを初めて、着々とこの計画を進めてきた。
俺が開発した自己暗示薬で、殺し屋を大量に雇った。唖夢も、お前もだ!
いまさら、邪魔をされては困るんだよ!」
「落ち着け!!」
「落ち着けるかぁ!!ぶっ殺す!!!」
と、刹那に、橋本は俺に向かって、銃をぶっ放した。
俺は亜子に逃げろと叫んだ後、
いつも使っていたワルサー41を持ち、
そして、唖夢の銃を持った。
「ゆー!」
「唖夢…逃げろ!」
「いやだ!」
俺は壁に隠れながら、
唖夢をコンタクトをとり、逃げるようにサインを送った。
しかし、彼女は聞き入れようとせず、
こちらへ走り込んできた。
亜子はもう、射程距離からは消えた。
おそらく、あの小屋に逃げ込んでいるだろう。
そして、ターゲットは、俺だ。
俺は銃声をならしながら、ホテルの複雑な庭に逃げ込む。
と、背中で息がする。
「唖夢…!」
「ゆー。私は戦う。
あなたのためじゃない。…自分のために。
あの男のために殺された、罪のない人々への、私自身の報復!」
「唖夢…。」
「だから、今は一緒にいて。
分かってる。あなたの心はもう二度と戻ってこない。
でも、最後に一度だけ…。」
唖夢は俺に顔を近づけた。そして、キスをした。
「さぁ、あいつを倒そう!」
俺は黙って、彼女に銃を渡す。
彼女は銃に弾を込める。
ちょうど、橋本がゆったりと歩きながら、ホテルの庭に入ってきた。
「また、お前ら二人になったのか。」
「パートナーだからな。」「そう、パートナーだから。」
「ふん、バカらしい…。」
「だが、お前かって、
…性格をあんな風にゆがめないと、忘れられなかったパートナーがいた。
違うのか。」
「その通りだ。」
橋本は銃をこちらに向ける。
俺と唖夢はいつものように、岩陰に隠れて、
橋本の動きを見る。
と、橋本は突然一本のナイフを唖夢に投げつけた。
銃が飛ばされる。
…唖夢の武器が、消失したと言うことだ。
俺は、ミスで、思いきり岩から身を乗り出してしまった。
「あ、唖夢!」
「ひっかかったな!そこまでだ!」
刹那、彼は俺の方に銃を向けた。
コンマ一つがゆっくりとスローモーションで流れる。
死の瞬間を、
目の当たりにしているのだろうか。
時間がゆっくりと、
ゆっくりと、過ぎる。
引き金が、
橋本の銃の引き金が、
今まさに、俺に引かれようとした…その時だった。
……
「ゆー!!!」
橋本の背後から、バンと銃を放つものがあった。
…亜子だ。
「亜子!どうしてここに来た!」
「…三人目の、パートナーがいたの…か…。
…見事…。」
当たったところは急所とは言わずとも、的を得ており、
橋本は銃を落として、倒れた。
俺はすぐさま駆け寄り、橋本の銃を奪う。
亜子が来てくれたのは驚くべき事だが、
しかし、助かったからには、しなければ行けないことがある。
俺は、彼の頭に銃口を向けた。
…が。
「やめて!」
亜子はそれを止めた。
俺は冷静な口調で問いかける。
「亜子?…何故止める。こいつを殺さないと、
俺たちは、一生狙われる事になるんだぞ?」
「でも…止めて…彼は悪い人じゃない。
きっといい人だったから、悪いことの限度を知らなかっただけ。
愛する人を亡くしても、誰にもぶつけられなかっただけ。
きっと、そう。
だから…だから…お願い。彼を殺さないで…。」
「…。」
7A・『無視して、橋本を殺す』
7B・『橋本を殺さない』