6B
「…前言撤回だ。
お前は優秀な人間だよ。
正解。
…俺こそがRBの全てであり、枢軸だ。」
「…どうやら、唖夢に聞くまでもないな。」
「…彼女に何を聞くつもりだったんだ?」
「俺の、記憶が消えていた原因だ。」
「はは、彼女が知っているはずがないだろ。
彼女に植え付けた理由は、真実とはほど遠い。
お前は駅で階段から落ちて記憶をなくしたわけではない。
…貧困地区に家族がいることは、真実だったが、」
「え…隊長?」
「唖夢にはそういった。
だが、本当の真実はこんな程度ではないんだよ。」
橋本は、銃を一旦片づけて、俺に話し始めた。
……
「もともと、俺は普通の喫茶店のマスターをしていた。
だが、ある日、ここの自治政府が、
俺の過去を問い調べて、俺に一つのデータを見せた。
そのときは驚いたよ、俺は「貧困地区」の人間だったんだから。」
「…」
「政府は俺を富裕地区から追い出そうとしていた。
ひどい話さ。俺の心は憎しみでいっぱいになった。
これまで普通の生活をしていたのに、
ある日、無一文で出てけというんだから、溜まったものではない。
俺は失意のうちに追い出されることになった。
同時に、貧困地区…第三貧困地区での生活を始めた。」
橋本はすっと、腕をまくり上げる。ひどい傷だ…いや、
傷にしては切り口がおかしい。
腕の色も途中からはっきりと、違う。
…まさか。
「義手だよ。ひどいだろう。
コンクリート粉砕器で、俺の右腕は粉々になった。
しかし、貧困地区の野郎どもは俺に構ってさえくれなかった。
富裕地区出身、…うぬぼれてると、けなし、蹴り、殴り、
腕の切り口に薄汚い砂をまき散らした。
俺はどうしようもなかった。
多分、ここから俺の細胞は死に、俺も死ぬだろうと覚悟していた。
…そんな時、彼女が現れた。名前は聞いていない。今も知らない。
ただの、普通の、女医だった。
彼女は富裕地区から、貧困地区の人間を助けるため、来て、
俺もまた彼女によって、助けて貰った。
…俺は感謝した。手が戻った。富裕地区が輸入した外国の科学技術が、
なにより、彼女の献身が、この義手を完成させてくれた。」
橋本はしばらく上を向いていたが、急に怒り顔をして、
銃をバンと地面に打ち付けた。
顔から炎を吹き出しそうな迫力。
亜子はきゅっと俺の背中を掴んだ。彼は続ける。
「ある日、彼女は富裕地区に戻る日に、貧困地区に追い返された。
なんとまぁ、彼女の恋人が政府の高官で、
彼は彼女に振られたからと駄々をこねて、彼女を入れなかったんだと!
ひどい話だ。
そんなわがままで、彼女は結局貧困地区から抜け出せなかった。
泣く彼女を俺は、必死に、今度は逆にフォローを繰り返した。
…そして、俺たちは2年の末、結ばれた。
一日だけの新婚生活。いや、誰も結婚を認定したわけでもないが…。」
……
『結婚とか、そんなしきたりに従わなくても良い。』『…。』
『一緒にいれれば、それで良い。
結婚することよりも、幸せ…。』
『…あぁ、一緒にいよう。
お前が一生ここにいることを後悔させない。
絶対に、良かったと思わせる。』
『…ありがとう。』
……
「…一日だけ?」
亜子がふいにそう尋ねる。
橋本は笑って、「ああそうだ。」と亜子に言った。
だが、…彼はその時、一番暗い顔をして、今度は俺の方を見た。
「そうして、次の日だった。
お前みたいな、「暗殺者」を名乗る男が、数人で俺を取り囲んだ。
…俺は縛り付けられ、
目の前で…あぁ、思い出したくない!!!
そうだ!
目の前で!
あいつは!あいつは!!!
暴行されて殺された!!!」
……