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「…そうだな。やっぱり、家に帰ろう。亜子。」

俺は亜子の髪を撫でながらそう答えた。
彼女は心底嬉しそうに俺の方を見てくる。

「残っている、知らない過去は…良いの?」
「…ここにいることはリスクを負うことだ。」
「リスク…?」「お前を失う、リスクだ。」「…。」
「だからって、お前をせめる訳じゃない。」
「…ゆー。」
「帰ろう。家に帰ろう。
 そのうち、何か思い出すかも知れない。」
「…ん。」

俺は亜子にキスをする。
どうせ、これから何度もすることだろうが、
記念の一度目だ。
それは、俺と亜子が「もう一度」結ばれてからの、初めてのキス。

「亜子、帰ろう。」
「うん…。」

俺は亜子の手を握りゆっくりと公園を抜け出す。
唖夢がRBに伝える前に、電車に乗って、逃げよう。

3年、まだ全ての真相は分からないけれども、
その過去で失っていた中で一番大切なものを、取り返した。
これ以上何をしようにも出来ない。

そして、デイパックの中にいる、一匹のチャオ。
俺がこいつと出会っていなかったら、多分、俺は…。
こいつにも十分すぎるくらい感謝をしないと行けないのかも知れない。

明るい未来を、もう一度取り戻そう。
俺が最初で最後に選んだ、運命の人と…。

……

「…橋本隊長。どういうつもりですか。」
「月見唖夢。お前は任務を失敗した。」
「ですから、隊長、あの男はもう富裕地区にはいませんし…。」
「あの男に過去を思い出させるならまだ良かった。
 だが、お前は彼を逃がしてしまった。
 貧困地区に、俺たちは手を出せない。分かっているはずだ。」
「…。」
「反抗分子になりうる人間をここから出すことは…
 それをした人間も…反抗分子だ。」 

橋本はサングラスをかけたまま黙って彼女に銃を向けていた。
唖夢は唇をかみしめる。
しかし…もう、誰も彼女を助けてくれる人はいない。
もう、1人もいないのだ…。

乾いた音が、また一つ、夜の街を駆け抜けた。

「……ゆー。」

そして、1人の女が、愛しい名前を最後に呼び、
ゆっくりと、目を閉じていった。

Fin


【アルバム6】もう一度、いつもの場所へ

俺たちは結局無事に家に帰ってきた。
前とは同じように食生活も行かないし、
暗殺業は、やはり、続けていかなければならないのだ。

しかし、ここには仲間がいる。
俺たちの子供をずっと養い続けてくれた仲間が、
そして、何より、その子供が。
亜子が。チャオ達が。
ここにいてくれる。俺はそれだけで幸せになれるのだと思う。

子供には「ただの長い出張」と説明しておいた。
どうせ、貧困地区にRBは手を出すことはしないだろう。
彼らは立派にその任務を果たしたことになる。
富裕地区に入らなければ、俺たちは普通の暮らしをしていけるのだ。

さぁ、もう一度この場所で、
亜子たち、家族と共に、幸せを作っていこう。
俺の最大の仕事はそこにあるのだと思う。


【アルバム9】キューピット

結局、このヒーローカオスチャオというのは俺たちのキューピットになった。
よく考えれば、前々から家族だったんだし、
キューピットを超えた存在なのかも知れないが。

最近、彼が俺の飼う他の赤い普通のチャオを率いるのを見かける。
彼もそろそろ自分の偉大さ(?)を自覚し始めたのか。

ところで最近、
「ゆー。あの時のジャムは、チャオのジャムだったの…。
 ゴメンね。でも、あれは昔取っておいたものだから…。」
と、亜子がカミングアウトしたのだが、
例によってこのカオスチャオが、ふいに、戸棚から「チャオフード」なる、
赤い、人間には「毒な」野いちごのジャムを取りだしてきた。
…味が同じである。
…もしかして、あいつは…。

一週間後、俺は食中毒で仲間に看病して貰う羽目になった…。
亜子は「用事」とかいって、しばらく俺の女仲間の家に逃走していた。
帰ってきたら、シめてやらねばならない。
にしても、あんなジャムで記憶を取り戻す俺って一体…。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第311号
ページ番号
19 / 29
この作品について
タイトル
diRty,ugly,and Black coffee
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第311号