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「…唖夢。…好きだった。」
「…過去形」「過去形だ。」
「これだけ私が泣いても…?」「あぁ、」
唖夢はしばらく黙っていたが、
急に、すたっと立ち上がり、こちらを見た。
「…そう、なら、勝手にして。」
「俺を殺そうとしないのか?」
「私の最後のあがきは失敗したし、愛しい人は戻ってこないし、それに…。」
唖夢は泣きながら笑顔でこういった。
「私と同じ思いをする人が増えるなんて…嫌なのよ。
…私を…撃ちたかったら、勝手に撃って。」
唖夢は銃をその場に捨てて、歩いていった。
彼女の背中を見て、俺は銃口を向ける。
彼女がいる限り…亜子はRBに狙われる存在となるだろう。
…殺すべきだ…俺は、今、唖夢を…。
だが…、それは無理な話だ…。
……
小屋の前で亜子が立っていた。
よく考えれば、亜子はもう21歳になっているはずだ。
大人っぽい感じがして、
肩の傷に目が着くまで気がつかなかった。
だが、こうしてみると、やっぱり変わらない。
3年前も、今も、ずっと。
やっぱり、亜子は、亜子だし…。
俺は、…俺だ。
「亜子。」
「戻ってきてくれた…。」
「当たり前だろ。夫婦なんだし。」「…そうだよね。」
亜子の癖と言えば抱き癖だ。…と思っている。
実際、今もまた俺にいつの間にか抱きついてくる。
毎日これだったから、最近は感覚すら無いときも多い。
…感覚が無いのは…マズイか。
と、俺はそんな亜子をそのままにしたまま、
一つの質問を投げかけた。
亜子は手を俺の背中に回したまま、ん?と上に顔をあげた。
「…亜子。一つお前に決めて欲しいことがある。」
「…何?」
「お前はこの後、どうしたい?」
「へ?」
「俺は、まだ分からない真実が残っている。
どうして、記憶を失ったのか。
どうして、戦線離脱したはずの暗殺をまた始めてしまったのか。
俺はまだ分からないところがある。」
「…ここにしばらくいるつもり?」
亜子は少し冷たい声でそう言う。
俺は一応、最後まで自分の意志表示を続けた。
「多分唖夢は仕事として、
冷静になった瞬間、俺たちを狙ってくるだろう。
だけど、俺は真実を知りたいんだ。
このまま帰っただけだと…俺は…俺は…。」
俺は言葉を止める。
亜子は先ほどの体制のまま、
今度は彼女が口を開き始めた。
「…私は…帰りたい。
早く、愛しい人と、愛しい我が家に帰りたい。
でも…私は、あなたと一緒にいたい。
だから、決めて。そっちがどうするか。どうしたいのかを。」
「俺は…。」
6A・『家に帰ろう。』
6B・『ここにとどまろう。』