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「何もしてねぇよ!!!」
「…。…叫ばないでよ。」
「俺は、お前だけが好きだ。」「嘘。」「嘘じゃない。」
「嘘でしょ!」
唖夢は俺の方をじっと見た。
「そうやって、私に取り繕うんでしょ!
そんなべたな言葉を、ありきたりな言葉を!何で信じないといけないの!?
そんなに私ってバカ!?そんな程度だと思っていたの!?」
「そんなつもりはない!」
「嘘よ…絶対に嘘よ…。」
彼女の声はだんだんと小さくなって、
俺に抱きかかっていった。
本当は、俺の方が暖かさが欲しいのに…。
俺は無力感と虚脱感に襲われた。
彼女を何とかしなければならない。
でも、俺も、自分の過去にある真実をどうしても知りたかったのだ。
過去を知ることは自分を知ること。
自分を知りたくない人間が、この世で生きているはずがない。
でも、人は他人と折り合いをつけていかないと生きて行けないのも、また…
「唖夢…。」「バカ…バカ…。」
俺はしばらくそのままバカという言葉を聞き続けていたが、
やがて、それがただの透明な息に変わった。
「泣き寝入りか…。」
俺は指をしゃぶったまま寝ている唖夢を抱えた。
そして、彼女と共に丘を降りていった。
ちょうど、夕日が現れていた。もうそんな時間だったのか…。
俺はそう思いながら少し、歩くスピードを速めた。
……
俺はしばらく、自分の部屋で唖夢を寝かせていた。
一つの疑問が生じてしまう。
唖夢は彼女なのか?
本当にそうなのか?
それがいけないと分かっていても、そう思った。
妄想がいつの間にか人にばれるのを恐れるように、
今俺は唖夢が自分の疑問にいつのまにか気づく時を恐れていた。
「その前に、…俺は確認しないと行けない。」
立ち上がる。
夜の八時、本当は仕事以外では出歩かないのだが…。
俺は唖夢が起きてこないように、
そっと部屋のドアを閉めた。
ガチャリ 「…ゆー?」
夜の冬の公園は寒い。
厚着をした俺は1人林の方へと向かう。
段ボールがいくつか家のように造ってあった。
…ホームレスも、多い。凍死しないことを祈るだけだ。
「…この公園の林を抜ければ…小屋が…。」
「…ゆー。」「!?」
「来ちゃった。」
「…来ても、良いのか?
最初に言うけど…俺が携帯を切った原因の所に、今から…。」
「女がいるんでしょ?」「そんな言い方するなよ。」「浮気者。」
唖夢は笑って俺にそう言った。
しかし、
「でもま、そうだよね。過去を知りたいのは、当然のことだしね。」
「…!」
「そうよ、驚いたでしょ。私はゆーの過去を全部知っている。」
「どうして、言ってくれなかったんだ?」「愛しているから。」
「…?」「…愛しているから。それだけよ。そーれだけ。」
「それだけって、お前…。」「さぁてと、邪魔はしないからさっさと行ってきて。」
唖夢は林の入り口で俺を奥へと押した。
笑ったまま…いや、嘘の笑顔だ。絶対に…こらえている。
「唖夢…。」
「早く行ってよ!早く!」
「…ありがと。」
俺は唖夢をおいて、奥へと向かった。
皮肉にも、昨日貰ったジャムを持って。
……