4A
「唖夢…!」
返事はない。
…屍に、返事など出来るはずがない。
返り血が、床に飛び散る。流れている。
彼女はベッドの前で倒れていた。
銃で、自分の頭を撃ち抜いたらしい。即死だったろう。
サイレンサーで、銃声さえも聞こえなかった。
「…救急車を呼びますか。」「あぁ…。」
…「救」急は出来ない。分かっていた。
俺は失意のうちに部屋に入る。
机に、手紙が置いてあるのに気がついた。
ゆー。
今日、私は死にます。止めないでください。
いや、多分、あなたがここに入る頃には…。
本当は、私はあなたの過去を知ってました。
ゆーの真実を知ってました。
でも、言えませんでした。
言ったら、あなたは私から離れていくだろうから…。
…本当は、橋本隊長に気づかれないように、もっと早く言うつもりでした。
あなたが過去に気づいてきたのは分かっていました。
もう、嘘で通すのは限界でした。私もつらかったです。
どうせ、私への感情もそれが無いことが前提だって言うことを分かってました。
でも、
でも…私は、ゆーと一緒にいたかった、
キスして、抱き合って、ずっと、ずっと…。
…ごめんなさい。
…好きになって、ごめんなさい。
「唖夢…。なんで…なんで、死んだんだよ…俺は確かに…。」
俺は手紙を大切に自分のポケットにしまった。
無くしてから、初めて気づく。
まるで幸せのような時を、初めて感じるのだ。
人間は最悪な生き物だ。そして、俺も…。
……お前を……お前を…
『良かった…。』
『そんなに、嬉しいのか…?』
『嬉しい…やっと、安心できる…。安心して…。』
『…?』
『ずっといてね。
私より早く死ぬとか、絶対に許さない!』
『はいはい…。』
……お前が先に、死んで、…どうするんだよ…
“mock me?”
いつも見ていた景色 壊されるまで気づかなかった
あなたといた日々 消えるまで気づかなかった
今をしのぐ毎日 俺は汗を流しながら歩く
ねちゃりとした手すりがまた俺に何を伝える
あの時 力のないキミと互いに守りあえたのか
ここの階段から飛び降りれば多分消えるだろう俺のちっぽけな力で
途方に暮れる毎日 早く消えて欲しいと思ってるのに
いつも通りキミは笑う 愛想笑いなの本当なの
知ることさえ出来ない日々 どうかだれか壊して欲しい
そして 天使が悪魔だったと初めて気づいた 遅いよね
キミは力無く結局消されていった
行ってみたいよ異国のレンガが囲む裏通り 独りさまようために
恋と言い愛と言い 何とでも言い 俺はもがいて
誰なんだどれなんだ どこに行けばいい?分からなくて
煩わしい幸せと詰め込まれてトラックで遠い国へ行く途中
息が苦しくてつらいかも知れないけどきっと光り輝いていたはず
僕は一つの線を書いたキミはそれを自由に繋げた
それを 一つの言葉に代えた 「別れよう」
さよなら僕は 今も暗い部屋の中
温もりがもう消えた枕を独り抱えて 日々をメモしていきながら
明日がどうなるかを見ている いつも待っている
……
一週間後。
俺はRBを辞めた。多分、即外国に行くことになるだろう。
規則だから、仕方がない。
RBを止めたら外国で生活をすることになる。
一生、この国に戻ってくることは、無い。
多分、あの女の所に行くこともないだろう。
あの後俺は、ジャムの瓶を思い切り道にたたきつけた。
……。
そう。…そういうことだ。
…そして、今日。
彼女が可愛がっていた白い、白すぎるチャオを連れ、
異国への軌道に、乗った。
Fin
【アルバム3】唖夢の自殺
今日、俺はレトロな外国の街の屋根の上に乗り、
またギターを弾いた。
歪んだ景色を目の前に、白いヒーローカオスチャオを隣に、
野次馬のような観客も見る中、
また、街頭でライブを始めていく。
……
さよなら僕は 今も暗い部屋の中
温もりがもう消えた枕を独り抱えて 日々をメモしていきながら
明日がどうなるかを見ている いつも待っている
……
俺は観客の拍手を聞きながら、
自身の詩を感じる。
…明日がどうなるかを見ている いつも待っている。
そう、
お前が、この汚い男の目の前に現れるまで。
お前を愛する、唯一の男の目の前に現れるまで。
唖夢、きっと、お前を俺は…。
【アルバム10】1人と一匹
結局俺とお前だけが残ったよな。
…楽しかったよな。唖夢との日々は。
…無表情でも分かっている、あの時は幸せだったんだって。
そのうち、またお前の飼い主が幸せになるように願っておいてくれ。
チャオっていうのは感情が分かる生きものなのに、
あまりにも、彼はいつも真っ白すぎる。
…癒されるときもあれば、イライラするときもある。
でも…それでも、1人よりはマシだ。独りよりは…。そう、…。
彼を抱き枕にして、今日も唖夢を思い浮かべる。
夢の中、
公園のベンチに座って、彼女が隣にいて、
俺は、自分を呼びかけるのをそっと待つ。
彼女は、無反応な俺に、笑って呼びかけてくれる。
「ねぇ、何してるの?」って…。