2B
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「何か探せば見つかるって!」
俺はそう言った後、少し、自分でがくっときた。
こんな言葉、誰でも言える。
だが、俺は不思議な感覚に襲われた。
このまま唖夢の思うままに動いては行けない、
これでお前は正しい。
…誰かがそんなことを言ったような気がした。
さっきはあんなに唖夢を受け入れたのに、
何かが俺をそうさせるのを拒ませようとしてくるのだ。
しかし、それは俺の記憶に残っていない、
まるで氷山の奥の奥から押し上げる、強い、見えない、力。
「…励ましてるつもり。」
「…正直、どう励ませばいいか分からない。」
「恋人でも?」「…あぁ」
「何か突っかかることがあるの?」「…どうして分かる?」
「…ちょっと、心当たりがあるだけ…。」
唖夢は、そのまま何も言わず、
「ヒーローカオスを見たい」と言って、屋上から降りていった。
俺はしばらくギターを鳴らしていたが、
急にいらっと来るものがあって、「ジャッ」と乱暴に弾いて、
そのままそれを担いで屋上から降りるのだった。
「…可愛い。」
「可愛いのか?俺は…。」「…何?」
「これを見ると、寂しい。」
俺は正直にそう返答した。が、仇となった。
唖夢は少しいらっとした口調で俺にたてついてくる。
「…言い返し?」
「は?」「さっき、無理な相談を持ちかけた私への当てつけ?」
「いや、そう言う訳じゃ…。
…ゴメン。」
「…。…あ…私が、…ゴメン、そんなこと言わせる気はなかったのに…。
バカね、私。…ゆーを、やっと好きって言えたのに…。
頭を冷やしてくるね。」
唖夢は変な顔をしていた。微妙と言うべきか。
しかし、仕事の癖か…悪く言えば、職業病か、
ポーカーフェイスが型にはまったようで、泣くことも笑うこともしなかった。
ヒーローカオスは無表情で俺に何かを訴えてきている。
最初から俺になついていることも、疑問だ。
…あぁ、増える、増える。疑問が、増える。
寝れば直ると思っていたが、枕では羊より疑問の数を数えていた。
結局、後日になっても、何かわだかまりが残る中、
唖夢と俺は橋本隊長の命令で捜索の仕事を任された。
…こういう仕事は当たり前だがフレックスタイムをゆうに超えた自由さだ。
指令がなければ自由に遊んでいれば良い。
仕事に一端はいると、後は全力投球だ。
これでいかに早くタスクを仕上げたかで、後々の待遇が変わってくるものだ。
ラッキーなことに、…ある意味、悪魔だが、
俺たちは一番成績が優秀であるコンビだ。
多分、今仕事を辞めても、一生遊んで暮らせる。
…そんな仕事の日、…こんなわだかまりを残して、どうするんだ。
俺は余計なことを考えず鏡の前で頭を振った。
だが、鏡に映る、ヒーローカオス。
…だめだ、離れない。どうしても、どうしても…。
「…ねぇ、仕事に日にこんな事聞くのも何だけどさ…。」
「…。」「私たちって恋人だよね?」「…。」「ねぇ…?」「…。」
「…そう。そうだよね、今日は仕事だから、ただの相方だよね!
うん!よろしく!」
唖夢は強く俺の肩を叩いた。力はない。
力はないのだ。彼女は今自分にのしかかるむなしさを取り除けてなどいない。
彼女はもうプライベートで頭の中がいっぱいなのだ。
俺は、何も言えない。それが、悪いとは思えない。
アホ毛を立てたまま可愛く飛び上がる唖夢の昨日の姿を思い出した。
冷たいとは思った、ごめん、でも、ごめん…。
「…よろしく。」