2A

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「俺のことは、どうでも良いのか?」

俺はそう言い返した。
わざと気を引こうと思って言ったわけではない。
ただ、唖夢を知りたい好奇心に駆られ、
そのような言葉をついつい出してしまったのだった。
だけど、後悔の念は来なかった。

唖夢は少し戸惑い、

「え?」
「…安心しろよ。お前はそれだけが取り柄じゃない。
 独りじゃ、取り柄が無い奴かっている。
 お前は、もう独りじゃないだろ?そう思えばいいさ。」
「…ふふ。」
「なにか面白いのか」
「バカ」
「は?」
「もう!ベタ過ぎるじゃない!ベタ過ぎ…。……バカ。」

唖夢はいつの間にか泣き始めていた。

「ずっと笑いながら人を殺してきた。
 そうでもしないと、余裕を感じられなかった。強くいられなかった。
 なのに、今の言葉のせいで、…無理…。
もう、我慢できない…。」
「それは…この仕事を、続けない…のか?」
「む、…何が無理か、分かっているはずでしょ?」
「…怒るなよ。あぁ、分かっているさ。
でも、…。…恋人になって5時間の俺で、そんなすぐに断ち切れるのか?
 これまで、生き甲斐だったものを…。
お前が取り柄にしていたものを…。」
「…あれぇ?」

唖夢は少しにやっと笑って、俺を見た。
そして、ふと目があった瞬間、俺は唇を奪われていた。
彼女は顔を元に戻して、口を開いて、こう言った。

「最初の言葉は何だったの?
二人でいれば、生きていける世界が、広がるんでしょ?
…もう、独りじゃないから。
私にはもう、殺すことで未来を切り開く必要は、無くなったから。」
「…そっか、そうだよな…。はは…なぁ、唖夢。」
「何?」
「幸せになれよ。」「…あなた次第ね。」
「…そうだよな。何言っているんだろ、俺。」
「へへ、それがゆーだから。
 …ゆー。大切なゆー。
 ベタでゴメンね、でも、一生…ずっと!ずっと!傍にいてね!大好きなゆー!」

唖夢はそう言ってまた抱きついてきた。
以前は戦闘向きじゃないという味方でしか見られない彼女が、
とても愛おしく見えてきた。
もしかしたら、これが「変化」というものなのかもしれない。

「…あぁ、約束するよ…唖夢…。」

こうして…俺たちは、RBを辞めることとなった。
と言っても、海外に飛ばされることが条件なのだけれども。

そして、俺の過去のわだかまりがまだ微妙に残っていた。
まだ、RBにいないと何かを忘れてしまいそうだった。
それがとても虚しい思いにさせた。

でも今はそれ以上に幸せだ。

数年のパートナーとして、一日の恋人として、これからの宝物として、
いまは、唖夢が俺を占めてきている。
俺の過去も未来も、彼女の思い出で埋まってきている。
それはそれで、実の気持ちの良いことだった。

俺は真実とかわだかまりより、今ある道を選んだ。
あくまでも、それだけだ。

Fin



【アルバム1】二人の音楽

5年後。

某国。

「ゆー、やっと買ってみたよ!キーボード!」

とある家で唖夢の明るい声が響く。
彼女は結局、俺と共に音楽を始めることにした。
まだまだ、下手なところも多いけど、
そこはきっといつか直っていくものだと思う。

たまに、ヒーローカオスチャオを見ると、
唖夢に「ゆー」と呼ばれると、
思い出せない過去が、失くしてしまった過去が、
自分のこの道を間違えた気持ちにさせる。
だが、唖夢も俺もこのチャオみたいに白い純粋な、
想いを、突き通してきた。

俺と唖夢は幸せだ。
彼女がいない生活なんて考えられない。

俺たちはこれから未来を生きていくだろう。
ずっと、ずっと、
終止符がつくまで、
二人の音楽を奏でていくのだ。



【アルバム11】形だけの存在

ヒーローカオスチャオは一生変わらない形で俺たちを和ませてくれる。
しかし、その真意は分からない。
唖夢に可愛がられるために俺と会った…?
…分からない。

もはや、ヒーローカオスチャオは普通のチャオとなっている。
あの無表情さが伝えようとした何かも、
彼自身が忘れかけている。
でも、俺と唖夢が幸せそうに笑っている限り、
彼も、きっと幸せなのだろう。

例え、形だけの存在となっても…。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第311号
ページ番号
6 / 29
この作品について
タイトル
diRty,ugly,and Black coffee
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第311号