「…え?飼う?」
「いや、なんかさ、可哀想じゃん。」
「可哀想じゃんって…橋本さんになんて言ったのよ…。」
「あぁ、偵察に使えますねって言ったら『おkおk』だって。」
「…相変わらずのネット的な言葉ね…。
 ま、ゆー…ゆー、の言うことだから私は何も言えないけどさ。」

ホテルに帰って俺はヒーローカオスを綺麗にして、ベッドに寝かせた。
そして、唖夢にチャオを飼うことを伝えていた。
実際、理由は何か突き飛ばせないものがあったからなのだが、
俺はそれ以上に「ゆー」を慣れない感じで使う唖夢の方が新鮮だった。
…仕事中は、「あなた」にして欲しいが。

でも…唖夢は今、俺にとって何だろうか。この世界に置いて何だろうか?
何になったのだろうか?それ以上に何か、変わったのかさえも分からない。
恋人?パートナー?……?
…分からない。
まぁ…彼女が今幸せなら、それで良いか…と思う俺も、情けない。
曖昧さのコンフリクトが俺を突っついて、逃がさない。

しかし、俺は澄みきった声は好きではない。
汚い声も嫌いじゃない。
曖昧で、力強くて、俺だと思える声が欲しい。
そう思って、
俺はまた部屋のギターを持ってホテルの屋上に出向いた。
いつか、こうしていれば、俺は変化を実感するのかもしれない。

「ギター…屋上?」
「あぁ。」
「私も行って良い?」「どうぞ。」

屋上にはベンチがある。今日は満月だ。
ここでギターを弾きながら、日々の迷いやかすかな喜びを
詩(うた)にして、曲を入れていく。
もしも、こんな境遇じゃなかったら、俺はバンドをやっていたかもしれない。
でも、もう、そんな姿を想像することは無くなっていた。



“dust box”

期待して裏切られた朝 
僕は変な塊を抱えたまま 
また手をのばすドア 
運転手は遅い俺を冷たく見ていた

小さい恐竜が吠えている 
大きな赤ん坊が泣いて愛を求める
ゴミ箱の底で眠って起きない 
あなたをそっと抱え上げてみたい

誰かが目の前を走り抜けた 
置き去りな汚い人を見た
目の前に二つのベクトル 
明日こそは笑顔になれるのかな 
多分無理だろうと思っていても 

最果てが見えてきてしまって
辺りには最果てが当たり前になって
それを伸ばそうとする人もいて
僕は自分でまた迷路を造ってしまう

道路は相変わらず人が通っている
ある日誰かが小さな声でかすかな声で呼ぶ
車の音がする電車の音もする
でも確かに聞こえてくる声がある

響き逢うのはそういう予定だからなの
違う多分僕らは運命じゃない
期待は外れるし嫌なところもあるし
理想でもないし仕方なさもあったし
でも
もう独りじゃないもう悲しくない
もう夢じゃないもう寂しくない
多分最果てはまた探さないと行けない
でもそれが 未来を生きていくこと そのもの



「…すごい。どうしてそんなに歌詞が作れるの?」
「すごくないさ。上手でもないし、綺麗じゃないし。」
「…そんな謙遜しないの!」
「痛っ!おいおい、急に背中叩くなよ。」
「ごめんごめん。…いいな、そんなセンスがあって。」
「…。」

急にセンチメンタルな気分になる。

満月が、ただの太陽に照らされた暗い星のように見えてきた。
しかし、唖夢は「こっちむいて」というと、
ゆっくりと話を始めた。

「私なんて、それこそ、殺すことしか、そんなことしか得意じゃない。
 それでしか生きていけない。」
「…。」


2A・『俺のことはどうでも良いのか?』
2B・『何か、探せば見つかるって!』

このページについて
掲載号
週刊チャオ第311号
ページ番号
5 / 29
この作品について
タイトル
diRty,ugly,and Black coffee
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第311号