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俺は勢いで銃を取り出す。
そして、彼女の胸に引き金を、
引いた。
「…そう、なら、しょうがないよね…。
ありがと、さよなら…」
………
「…唖夢か?俺だ」
「携帯で連絡よこすって事は?」
「あぁ、仕事を果たした。
ついでに彼女は小川の中に飛び込んで、死体は行方不明。」
「…はあ!?あのね!死体がないと分からないでしょうが!
もうバカバカ!報酬もらえないよ!」
「…んなこといわれてもなぁ…。」
俺はぷちっと携帯を切った。それを閉じる、
と、閉じたときに光るサイドランプがバットを青白く照らした。
俺はしばらくそれを見つめていたが、
…。
現在。
あれから俺はバットを離したことはない。
「…信じているの?彼女が生きているとか?」
「いや、…そうじゃねぇんだ。…そういうわけじゃないんだ。
俺は…川に飛び降りた人間が生きることを信じるほど、
…バカじゃない。」
「そう。…ねぇ…なら、さっさと汗流しましょうか。
嫌なことなんて全部忘れちゃえばいいのよ!」
「…ふふ、そうだな。………ありがとう。」
「え?」
「お前の存在は俺を生かしてくれる。」
「なにそれ?新手のプロポーズ?」
「…違うよ、でも、今の言葉は本当だ。」
男はバットとニット帽だけは貴重に、
部屋から出て行く。
「…私の存在…ね。…。」
唖夢は少し物思いにふけっていたが、
すぐに男の後を追いかけていった。
「…で、相変わらずだけど、」
「?」
「でかいな…あれは。」
「まぁ、そうよね。
だって、ドーム型バッティングセン…」
「ってか、ドームだ。誰が何を言おうともドームだ。」
「確かに、私も政府はお金を使いすぎだと思うけどねぇ…。」
俺と唖夢は冬の日差しが当たるこの街を臨んでいた。
たまに、仕事の合間に二人でここに来る。夢を見る丘だ。
二人は協力することが多い。
だから、二人でいることに、何も感じることはなかった。
過去も、現在も、未来もいっしょだった。
恋でもなく、愛でもなく、なにか、不思議な心。
四次元を飛び交い、空にキスして、そして、俺たち二人を繋げる。
そんな無邪気な心。
前に見える…西に見える景色は単純で、シンプルだった。
先ほど汗を流したドームや、
石油でどんどん裕福になって行くレンガ造りの街。
ギルド街。そして…
「奥に見えるのは山じゃなくて…煙か。」
「繊維工場ね。」
「繊維工場…か。貧困地区のシンボルだな。」
シンボルというのは、皮肉だった。
こちらではまた一つ、冬が音も立てずに消えていく。
あちらでは、例え熱くても寒くても、「冬」は、終わらない。
だが、そんな土地を見て、少し…。
「…。」
「ふふ。なに、おじさんの目になってるの?」
「懐かしく思えるんだよ。」
「え?」
「あのレンガやギルド街を超えた、遠い、遠い、あの街が。」
「それって、どういう…。」「悪い、多分気の迷いだ。」
俺は即座にそう答えて、その場をごまかした。
元々明るい唖夢もすぐに笑って「そう」と一言。
…西の街、貧困地区から、雲が近づいてくる。
雨になるようだ。
「生きてると、そんなことかってあるよ。」「ん?」
「裕福だと、サバイバルにあこがれる。
縛られていると、自由にあこがれる。
自由だと、誰かの熱が恋しくなる。
誰かの熱が欲しくて、欲しくて、今日も生きているの。」
唖夢は何かもの悲しそうに遠くを見た。
西の方向はあえて外しているみたいだった。
俺は自然と、口が開いた。
「おまえは…お前は…なんだ?」