あれ…なぜだろうか。一番来たくない場所なのに。
まるでヤクを求めるヤリマンな女のように、
自分はいつも同じこの場所に吸い付けられてくる。
変な妄想と快感に浸され酔わされ、
ついには精神虐殺され、そして、死んでゆくのだ。

此処は例の幼稚園裏の崖、要するに「事故現場」と言うことだ。

「あ、トビちゃんじゃない。」

後から声がする。誰かは声で分かった。
何か…自分は、後ろのチャオに言いたくなった。
愚痴、不満、健常なチャオに対して暴言を吐きたくなる。

「そうだよ。久しぶり。」

…しかし、そんなことで親友関係を崩壊させたくない。

「…おまえ、はねっちだろ?」

はねっち。俺の真友。親友でもなく心友でもない。
ただ、自分をさらけ出せる、唯一のチャオ。
飛ぶことが上手い。それだけ、後は何も出来ない。
だが、前の飛行テストではトパーズメダルの数を更新していた。

トビちゃん。自分のこと。はねっちとまるで逆。
飛ぶこと以外に長けている。
絵もティカルやエミーも描ける。走るのも速い。
前、平均アビリティテストは2400。
飛行は「0」、『残り物』は全て3000。

…そうだ、これが結果。
転生もしないだろう自分のこの悲しみだけの生き様。
このままで終わるのだろうか…短すぎる命を。

「…トビちゃんっ!!」

いきなり大声で話しかけてくるのでびっくりした目で見る。
自分は、変な考え事をしていたとき、
こうやって驚かされていた。

「くくく、何か考えているようでさ。脅かそうと思ってね。」

毎度、本当に心情の分かるやつだと再認識させられる。

「で、ところでさ。」

彼が話の駒を進めてくる。
それは、自分に考え事をさせないための、
彼なりの優しさなのだろうか。

「うん。何か言いたいことがあるのか?」

とりあえず、無難な返事をする。生返事という奴だ。
どうせ、羽の話に違いない。そう聞いて、話を切り、
自分の独りよがりなグチを聞かせる…



…はずだった。



「おまえが飛べる方法があるよ!」
「はぁ!?」

自分は一瞬のけぞり、そして驚きの目を彼に向けた。
はねっちはやはりにやにやとしてこっちを見る。

「冗談だろ?」
「いや、冗談じゃないさ。本気だよ。」
「…あぁ、多分本気だろうよ。
 オマエがそんな嘘を付くとは思っては居ない。」
「そうそう。まぁ、土曜日にその答えを教えてあげるから。」
「…楽しみにしておくよ。」

自分は期待などしていなかった。
多分、科学技術の生け贄か、新興宗教の道連れか、
そんな物しか考えていなかった。
でも、今より幸せになれるなら、なれるなら…。
そう言う意味で「楽しみに」していたのだった。



…土曜日。

自分は、飛行場に連れて行かれた。
予想外だった。あまりに普通の場所であるからだ。
混乱している自分の手を引いて、はねっちはどんどん進んでいく。
そして、ある部屋で立ち止まった。

そこは見たこともない人間の漢字が並んでいる。
はねっちはその中に入っていく。
俺も彼に黙って着いていった。…何があるんだろうか?

「はねっち。久しぶりね。」
「こんにちは。」

ドアに入った瞬間奥の机から声がする。
おかまっぽいチャオが歩み寄ってくる。

「さてと、君が飛べなくなったチャオなのね。」

飛べないと言う言葉を聞いても腹を立てる事はなかった。
それは、それで腹を立てることが無意味に思えたのか。
彼女(?)の大きな威圧感に近い圧力もそれを邪魔した。
これは、希望という感情なのだろうか。
自分は…。

「そうです。」

自分はとりあえず勢いで返事をした。
飛べるならば、飛べた方が良い。そう思ったのだ。
(こんな考え方しか、出来なくなっていたのだ。)

「そう。じゃ、単刀直入に聞くね。」
 …あなたは、本当に空を飛びたい?」

諭すような、しかしその奥の厳しい目つきが自分に向く。
今度は適当に応えることは出来そうにない。
暫く下を向いて、色々と考えた。

自分は「はい」と答えた。

「ならもう一つ。それは自分の力で飛びたい?」

…確かにそうだ。今までそう考えてきた。
自分は「はい」と答えようとして、ふと記憶がよみがえる。



「トビは空を飛びたい?」「いつか本当に飛びたい?」
幼い頃、親にぶつけられた言葉。
「もちろん!どんな手でも!」「うん!もちろん!」
ぶつけ返した言葉。

「トビは空を飛びたい?」「いつか本当に飛びたい?」
最近、親にぶつけられた言葉。
「いや。どうせ自分では飛べないよ。」「どうせ無理だろ!」
ぶつけ返した言葉。

いつから、自分で飛ぶと言う束縛的な考えになっていたのだろう。
いつから、自分で飛べないからと言って焦っていたのだろう。
いつから、自分の「夢」を忘れていたのだろう。

そう。

自分の夢は「空を飛んでみたいこと」だ。
幼いときからの夢だったんだ。
単純だけど、力強い、一生消えない夢だったのだ。

そうだ。何故、それを忘れていたのだろう。
自分に頼らない癖して、自分で何とかしようとして、挫折して、
こんな気持ちになってい

このページについて
掲載号
週刊チャオ第317号
ページ番号
2 / 4
この作品について
タイトル
チャオとヒコーキ曇り空割って(08ver)
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第317号