月曜日の午後だった。
あるチャオが落下事故を起こした。
羽が生まれつき弱かったらしい。
すさまじい音と共に、彼は崖の下で呻きながら、
大切そうに、羽を触りながら、涙を流した。

彼には分かっていたのだ…羽が折れていたことを。



「…大丈夫?」

聞き慣れた声。あぁ、そうか、飼い主だ。
そして、ここは病院だった。

「もう、飛べないんだね…。」

飛べない。
彼にとっては一番の嫌悪の言葉に違いなった。

だが、チャオは心情を3つでしか表現できない。
人間で言う2才くらいのその感情表現に、
嫌悪の言葉を浴びせるなと言うような表現は無理だ。
彼は、しかし、精一杯ぐるぐるを出すことはした。

「お腹がすいたんだね。ご飯を持ってくるよ…」

やっぱりだなぁ…飼い主にさえ自分の感情は伝わらない。
こういうとき、信頼関係にも片思いがあると悟ってしまう。

「はい。実だよ。」

軽く渡された。その実。
しかし、それはチャオの記憶を、あの忌まわしい記憶を、
フラッシュバックさせてしまった。



「皆さん。今日も飛んでみますよ~。」

幼稚園での先生の声。いつもの給食。
いま、飼い主から渡されたのと同じ実。色も形も。

「これで元気よく飛びましょうね!」

先生が元気よくみんなに勇気を付ける。
怖いチャオもいるのかぶるぶる震えて居るやつも。
いや、彼も入るのだが。
そう、今日はテスト。みんな怖いんだろう。

自分は年長、つまり2才という成長時期になっても、
羽だけは発達しない。
それはアイデンティティの一つであり、最悪のコンプレックス。

みんなが空を飛べるのに…。
下から見るだけの自分に感じる焦燥。

倦厭感ある故に先を見たくもない。
絶望感ある故に死にたい。

「俺はもう飛べないだけのチャオだな。」

そうして、起きたさらなる悲劇。
よく覚えていない。
ただ飛んだ瞬間、バットが折れ様な音とみんなの悲鳴が
こだましたことだけは覚えている。



「…実、食べないの?」

飼い主が悪いわけではない。
そう、自分が悪い。いや、こんな子供を産んだ親が・・・

責任は誰にでも押しつけることが出来る。
要はそれを誰に押しつけるか。

「あっ…」

飼い主が声を上げる。
それはそうだ。いつもまじめな自分が新しい実を捨てたのだ。

そして、自分はベットを降りて、一目散に駆けた。
飼い主を不動のオブジェクトかのように通り過ぎる。
…窓からも逃げれたのだろうか?普通のチャオなら。
…ああ、羽のことが頭を離れない。どうしようもなく。

病院の患者達の自分に対する目は絶対零度を思わせた。
一つしか羽を持っていない為だろう。
そう、自分は羽を切られた。それが最善策。

そんな、羽が一つ無いくらいで、人の目は変わる。
チャオの目かって、変わるのだ。

国士無双の人間など、この世には居ない。
自分は打ちのめされ、ぶたれて、潰されていくのだ。
あるいは、無言のブローイングで…。



言いたいことが何かあるなら
言ってくれればいい
たとえばそれが皮肉だとしても

説得力のある暴言なら
もう何度も聞いた
つらい態度の裏側にある気持ち

孤独なんて とんだ 知ったかぶりなのに
かっこつけて あなたを突き飛ばしてしまう
近づいてくれればいいよ そう思っているのに
何故こんな顔を 顔をしてしまうのか


プライドや男らしさは嘘で
ただ怖いだけなんだろう
真実を突き崩されてしまうことが そう

ダメだって言われたならば
あきらめられないだろう
かすかな希望や妄想をしまっておきたいんだ

馬鹿だなんて そんな 今更なんて話なのに
大声出して否定したくなるの バレバレでも
えづいたものを取り出し 本当のこと口にして
夢が夢でなくなってしまうことは…


バンジージャンプする5秒前
すべてが0になる5秒前
かすかな風が吹く 雲はいつも流れていく


孤独なんて とんだ 知ったかぶりなのに
かっこつけて あなたを突き飛ばしてしまう
近づいてくれればいいよ そう思っているのに
何故こんな顔を 顔をしてしまうのか

someday そしていつか 
そうやって夢が叶うことをひっそりと望んでる
それじゃあ何も変わらない…

このページについて
掲載号
週刊チャオ第317号
ページ番号
1 / 4
この作品について
タイトル
チャオとヒコーキ曇り空割って(08ver)
作者
それがし(某,緑茶オ,りょーちゃ)
初回掲載
週刊チャオ第317号