第五十七話 多分・・・最後の決戦だと思う
扉を開けて入ってきたのは、ゾルグの娘、ラリマ姫だ。続いて、ホワイトたちも入ってくる。
ブレスト「こんな夜更けに、どうしても入るというから、入れたぞ。」
ゾルグ「どうした?」
「戦争の事ならば心配いらんぞ。わしがなんとかしてやるからのう。」
珍しくも、老人口調。赤いチャオは心を読み取ったのか、そう言った。
カイス「あ、貴方は・・・」
イレン「御久し振りです。ラキナ様。」
ラキナ「おお、イレンか。懐かしい顔立ちじゃの。それと後ろのは・・・ヒーズか?大きくなったもんじゃ。それに・・・」
ホワイトを見た瞬間に、ラキナは目を丸くして、ホワイトの目の前へと飛びついた。
何が起こっているのか分からないようで、ホワイトは一歩退くが、ラキナに抑えられる。
ホワイト「な、ななな、なんだよ?」
ラキナ「覚えておらんのか?ほお、それはそれは・・・三大将軍の内、独占一位の実力を持ち、更には国家認定光術士。出で立ちか?」
その目は、ホワイトではなく、ホワイトの奥の何かに話しかけているようだ。すると、ホワイトは取り憑かれたように倒れた。
ホワイト「いつっ・・・何しやがる!」
ラキナ「来い。ラリマの保護役。三百六十年ぶりに勝負をわしから挑んでやろう。」
ヒーズ「三百六十年ぶりって・・・あいつ、生きていないだろう・・・」
ゾルグ「嬢、止めろ!そいつは―」
止めに入ろうとするもつかの間、ラキナの一睨みでゾルグは静止する。
右手を前に挙げて、左手を腰の位置に下げ、左足を半歩引き、右足を横に傾け、ラキナは構えた。
ラリマ「それよりお父様!国は大丈夫なの?!」
ゾルグ「心配するな。セント・ラート国が味方に入った。怖いものは無い。」
カイス「どういう・・・」
もう何も質問は受け付けない様子で、ゾルグはホワイトを見据える。勝負を楽しみにしているようだ。
ブレスト「奴・・・ラキナと名乗る者は何者だ?」
アヴェン「無知だねえ。本名は「綺羅奈 火鴬」(きらな ひおう)。東の「ソルクーブ列島」を統一する中心地、「述寺」の党首さ。」
イレン「因みに女性ですよ。年齢は不明ですが、かなりの高齢でしょう。申し送れました。私は、イレンです。」
恒例といってもいい程の、にこりと笑って自己紹介を終えると、今度はヒーズがため息をついて、口を開いた。
ヒーズ「三百六十年も生きているのか?だが、ホワイトは三百六十年も生きていないだろう?」
カイス「私も実際に見るのは初めてだ。とある者に聞かされ、存在を知っただけで・・・三百六十年以上、生きている筈だ。彼女は。」
アヴェン「なんでかわからねーが、そいつがここにいる、っつーわけだな。ホワイトと分けありみたいだし。」
通称、三大将軍と呼ばれるようになったのはいつだか分からないが、その時にガーランド大国があった可能性はゼロだ。
というと、ホワイトは今までずっとどこかへ身を隠していたことになるが、無論、ホワイトにはその記憶など、残っていない。
ラキナ「かかってこぬのか?随分と臆病になったもんじゃのう。」
ホワイト「うるせえ!んなら、掛かっていってやる!」
左足を引きずるように体を伏せて、横に飛ぶと、ホワイトはラキナの懐から青い光を、急速に作り出し、放った。
だが、ラキナは身を四十五度程度反らすだけでそれをかわし、ホワイトの左手を右手で押さえつけ、左手で正拳を突いた。
不思議な感覚で、ホワイトはふわりと吹き飛ぶと、地面に叩きつけられる。
ゾルグ「・・・それでいいだろう。」
ラキナ「否・・・最早、こやつには闘志が感じられん。何かありでもしたか?」
ホワイト「っつ・・・何したんだよ・・・ん?」
扉が開く音がすると、同時に爆音が響いた。まさかと思い、ラリマ姫は窓を開けて、外を見る。
暗い夜空の下で、赤い炎の光で、城下町が燃えている。
ゾルグ「・・・ラキナ、ラリマを頼むぞ。俺は町に出向く。」
カイス「!・・・王!何故だ。ラキナ殿が幾ら偉大かとはいえ、姫様が心を許すと思う―」
ゾルグ「思わなければ言わん。ラキナはラリマの名付け親だからな。心配無用だ。」
爆音が段々と近付いてくるように、大きく聞こえてきた。時間がない、とばかりに、ゾルグは兵士に命令を出すと、黒い布を被った。
ゾルグ「戦争になるだろう。その間になんとか、こいつらを、ソルブーク列島に連れていけ。頼んだぞ!」
そういい残して、ゾルグの姿は暗闇の中に消えた。ラリマ姫は慌てている様子だが、ラキナが近寄ると、動きを止めた。
ホワイト「俺も行くぜ。なあ、ブレスト?」
ブレスト「僕が行かないと思うか。トラバート、イレン、姫と共に行け。」
カイス「な・・・私も戦う!」
アヴェン「いやあ、お前は残って無くちゃ。姫が可哀相だろ?さ、行くぜホワイト、ヒーズ、ルド風情!」
窓から次次と姿は消えていき、その場には既に、ラキナとラリマ姫、そしてカイスしか残っていなかった。
続く