第四十七話 過去よりの決別
もう私はここへ戻ることは無いだろう。だからせめて、一陣の誇りとしてこれを遺す。
私が唯一信頼し、私が唯一憧れた、ただ一人の戦友の為に・・・
カイス「・・・来てしまったか・・・」
色とりどりの花が咲く、花畑。その中心に、カイスは居た。その前には、灰色の墓標が建ててある。
刻まれている黒い名前は、「ホワイト=ザ=ラシアロスト」・・・ホワイトの名前だ。
カイス「ホワイト様・・・数日前より、貴方と同名の者と出会いました・・・驚く程、貴方と似ています・・・」
暗い顔で墓を見つめ、誰かに話しかけるカイス。日光は真上に昇り、墓標を照らす。
「おーい、カイスッ!まぁた被りモンがずれてるぜぇ!」
花畑の中心に立つカイスは、黒いマントを羽織っている。今と余り変わらない様子だ。
話しかけているのは、カイスの目の前に降りてきた、白い体に、赤い模様をした、ヒーロー・ハシリ・ハシリのチャオ。
カイス「ホ、ホワイト様・・・またいらしたのですか?」
ホワイト「いつもいつも、お前がどっかいくからじゃねーか。何だ?近衛隊長の地位が気に入らなかったのかよ?」
カイス「いえ・・・そういう訳では・・・」
何故かは知らないが、ホワイトがカイスをまいている。執拗に瞬きを繰り返すと、ホワイトはにやりと笑った。
ホワイト「あんまり頑張りすぎんなよ。姫様も今年からやっと教育を受けるようになったんだし。」
カイス「べ、別に頑張ってなど、いませぬ!私は私なりにやっているだけです!」
黒い羽織に付いたフードを整えて被りながら、カイスは叫んだ。どうやら鬣が気に入らないらしい。
気に入らない理由は、本人からすれば、「闘いに置いて姿形は必要なく、邪魔なものでしか無い。」のだが、ホワイトからすれば「可愛く見えないから」だ。
カイス「処で、将軍三名に召集がかかっていましたが、何かあったのですか?」
ホワイト「ああ・・・ちょっとな。組織の奴等が又、不穏な動きを見せたらしくて、俺らで行くことになったんだ。」
カイス「・・・敵陣に乗り込むのですか・・・もしや、あの「戦慄のウォリア」を相手にするのですか!?」
「まあな」と、大したことではないように言葉を吐き捨てると、カイスは急に心配そうな顔つきになる。
ホワイト「まー、そんな心配すんなって!」
カイス「し、心配など・・・!・・・いくらホワイト様でも、荷が重過ぎます!戦慄のウォリアは大陸で最も強いと謳われておられるのです!」
ホワイト「だぁかあら!俺が負けるわきゃ、ね え だ ろっ!」
右手をカイスの頭に突きつけて、ホワイトは微笑しながら言った。その声には、自信が満ち溢れている。
先程よりも落ち着き払った様子で、カイスは第二言を考えているようだが・・・
ホワイト「止めようっ!・・・たって無駄だぜ。俺はいつも通り俺でやるだけさ。どっちにしろ、三大将軍が動くんだ。五帝といえど、傷を負うだろ。」
カイス「けれども・・・ホワイト様はともかく、ダート殿とデスベルグ師匠は大丈夫なのですか?!」
ホワイト「ダートとデスベルグの奴ぁ、心配いらねーよ。つーかお前、やけに今回止めに入るな・・・」
その時、丁度「城」の鐘が高く響いた。時間を報せる鐘のようで、それを聞くとホワイトは真剣な顔つきになった。
ホワイト「じゃ、行ってくるっ」
カイス「わ、私も同行させていただきま―
ホワイト「駄目だ。お前ぇは姫様を、しっかりと守りな。そうすりゃ認めてやるよ。そうだな・・・俺が帰ってきたら、将軍職をお前に譲ろう。じゃなっ!」
そういって、風のようにホワイトは消えていった。まさかとは思うが・・・このとき、カイスはどこかで・・・
―ホワイトが敗北するのを、予知していたような気がした―
ホワイト「悪ィな、待たせて。行こうぜ、ゾルグのおっさん!」
ゾルグ「覚悟はいいのか?」
そういうゾルグの声には、震えがあった。敵はとてつもなく強靭ならしい。が、ホワイトは自信満々だ。
その隣に居る・・・少し幼いラリマ姫が、手に何かを持って、ホワイトに近づいた。
ラリマ「あのっ・・・これ、私が一所懸命作り上げました・・・お守りですわ・・・」
ホワイト「サンキュー!じゃ、ラリマ姫様、之よりホワイトは、将軍職をカイスにお譲り致しますが、よろしいですな?」
ゾルグ「こら、ホワイト!何を・・・」
目を瞑って、何か選択しているように、ホワイトは考え込んだ。目をゾルグに向けると、ホワイトは微笑した。
ホワイト「いいだろ。じゃあ、姫様、俺からはこれを渡しとくぜ。」
左腕につけてある、赤い綺麗な宝玉を、ラリマ姫の首に引っ掛けた。
ラリマ「・・・お気をつけて・・・」
カイス「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
城の廊下中を駆けずり回り、やっとの思いで王座の間に辿り着いたカイスは、蹴り飛ばして扉を開けた。
カイス「王!ホワイト様は・・・!」
目に入ったのは、俯いているゾルグの姿と、泣きじゃくるラリマ姫の姿と・・・
続く