第四十二話 勝敗は決した?
ゼビリット「おらあ!どうしたあ!」
刺々しい刀を両腕に装着して、振り回すゼビリットの前には、赤い光を右手に集らせる、ブレストの姿があった。
ブレスト「どうしようもしないさ。」
振り回される刀を、軽めに、ぎりぎりのところで避け続けるブレスト。
どうやら予測すると、相手、つまりゼビリットは、主に力戦だ。黒い光を未だ一度も使ってこない上、刀は元々、あったものだ。
ゼビリット「余所見してんじゃ、ねーよ!」
ブレスト「貴様には余所見しようとも、容易に勝てるということだ。」
赤い光を縦長に伸ばし、盾とする。それに突撃し、ゼビリットは弾けとんだ。
しかし、金属の床に刀を突き刺して、ダメージを最小限に収めてしまう。
ゼビリット「やるじゃねーかよ。その調子でこい!」
ブレスト「(ほう・・・攻撃が防御となるのか。ならば・・・)」
走り出したゼビリットを見据え、その動きを目だけで追った。だが、突如その姿は消え、視界から消えた姿は背後の気配となって現れた。
ブレスト「―後ろかっ―」
ゼビリット「魂幻爪!」
視界が全く、利かない。見えるのは、黒い壁・・・いや、闇の中だ。その周囲には、星のような光点が、連なっていた。
その一つ一つが、巨大な刀の形を成し、矛先をブレストに向けている。
ブレスト「魂幻爪―対象を闇の中に引き擦り込み、幻惑を魅せ、魂を削る光術か。光は使えたようだな!ゼビリット!」
箱の中から声を出しているような気分で、ブレストは叫んだ。同時に、せせら笑いが聞こえてくる。
刀のそれぞれが黒く、闇と一体化した。途端に矛先が近づいてくる。だが、見えない為に、感覚で捕らえるほか無いのだ。
ゼビリット「覚悟しな!」
ブレスト「そちらがな。」
赤い光の集った右手を挙げて、左足を後ろに一歩、下げた―刀の割れる音がし、闇は消え去った。
ゼビリット「・・・出やがった・・・そいつがてめえの光儀刀、か。」
ブレスト「陽儀斬だ。宜しく頼む。今から貴様の身を刻む刀だ!」
相手の動きは既に捉えたはずなのに、振り下ろした先に矢張り、ゼビリットはいなかった。
どうやら相手のしていることが、理解できたらしく、素早く身を伏せたブレストは、刀を床と平行に向けた。
ゼビリット「魂幻爪!」
右手の刀の突きは空振りとなり、光儀刀、陽儀斬の真上を通り抜けた。見事な「外れ」だ。
ブレスト「隔陽斬!」
刀を振り払って、弾き、うろたえたところを背後に回って、左手を突きつけた。
その左手から赤い光が溢れ出し、集結した。放たれると、ゼビリットはすぐに後ろを向いて、刀で受け止めた。
ゼビリット「うあ゛ッ・・・ぐあらあああ!」
赤い光を押し返し、両刀から黒い光を放出させるゼビリット。その隙に、空中へ飛び上がるブレスト。
ゼビリット「魂幻爪―改!」
ブレスト「明朗剣!」
黒い光が渦を巻いて、ブレストに向かい、放たれた。そこに光儀刀を突き刺し、ブレストは体勢を回転させる。
渦は逆回転し、勢いが収まったところへ、赤い光の宿った光儀刀、陽儀斬で、切り飛ばした。
再び体を回転させて、床に着地した後、ゼビリットに剣を向け、こういった。
ブレスト「僕の実力がこれだ。まだやるというのならば、容赦せん。」
ゼビリット「ふ・・・はっはっはっは!!いや何、お前が余りにも馬鹿なもんでなぁ!これが俺の力だと思ってんのか?はっ!」
突然狂ったように笑い出したゼビリットを、驚いた目つきで見つめる、ブレスト。
両刀から・・・凄まじい黒い光が溢れ出し、その身を覆い尽くしていく。これが・・・本当の、覚醒・・・
ゼビリット「覚っ・・・醒っ!」
ブレスト「何―」
金属製の床、壁の大半が傷だらけで、触れたら崩れてきそうなぐらい、壊れかけている。
大幅に力を消耗したようで、ゼビリットは地面にひざまづいて、刀にはひびが、数箇所入っていた。
ゼビリット「くそっ・・・こんな奴に・・・」
明らかに倒れているブレストだが、まだ息はある。止めをさす気力も、体力もないゼビリットは、そのまま黒い光の中へと姿を消した。
ブレスト「ぐ・・・」
「・・・ブレスト=ザ=ルド・・・赤き光を操り、実力は中の上。組織統領の息子・・・か。へえ・・・」
このときを待ち、現れたそのチャオは、書類を見ながら呟いていた。ブレストの首に手を当て、生きていることを確認すると、抱えた。
緑色のニュートラル・チカラ・チカラのチャオは、書類を二つに折って、投げ捨てた。
「任務完了っと。ったく、無茶する奴だねぇ、ブレストって奴は。ゼビリットに敵うわけがないじゃないか。」
そういい残し、その場から、消えていった。
続く