―第一章"三つ巴の意志"・その18―

―――埼玉県・某所

澄の隣ではクルトが寝息をたて、反対側の窓際ではアルフが延々と外を眺めていた。
四宮の黒い車は埼玉のとある森の中を走っていた。すでに日は沈み、辺りを照らすのは車のライトだけだ。
澄は流石に不安を感じて、四宮にこれから向かっている先を尋ねた。
返答はこうだった。

「"秘密基地"さ」

四宮はそう、何故か嬉しそうに答えた。にしても"秘密基地"とは何だろうか。
それから少し走ると、闇を切り裂くライトの中の木々の間にくたびれたログハウスがあるのが見えた。
ログハウスの近くには二台の車が。
四宮は道路の端に車を止めると、降りて二台の車へと歩み寄って行った。
何かと思って澄もついていこうとドアを開けて車を降りると、澄に寄りかかって寝ていたクルトが倒れ、目を覚ました。
眠そうに目を擦り寝ぼけた感じで辺りを見回し驚くと、さっきまでの眠そうなクルトの表情が吹き飛んだ。

「こ、ここどこ!?」

「埼玉県の、東京に一番近い山中ですよ」

いつの間にかアルフも降りて澄の横にいた。

「行きましょう。皆待っていますよ」

皆って?と聞く間もなくアルフは四宮の元へと行ってしまった。
とりあえず二人もアルフについて行くと、四宮の近くに誰かがいるのに気付いた。
暗くて顔は見えないが…恐らくは荒川と大隈だろう。澄は気付いた、その隣にアルフじゃないチャオがいるのに。
アルフは四宮の隣にいる。ではあのチャオは?クルトも気付いたようだ。
ともかく、ここに何故来たのかも聞くために四宮の元へ急いで駆け寄った。
二つの人影はやはり荒川と大隈だった。荒川はニコニコして澄に挨拶した。

「何かあったらここに集合するって決めておいたんだよ。すまないね、澄君に伝えるのを忘れてた。
 それと、リイシャは初対面だったっけ?ほらリイシャ、この前話した澄君とクルト君だ」

そのチャオは荒川に半分隠れて二人を見ていた。少し脅えているようでもある。

「ごめんねー、リイシャ人見知り激しくて…」

荒川が申し訳なさそうに言った。リイシャは荒川に完全に隠れてしまっていた。

「構わないですよ。な、クルト?よろしく、リイシャ。
 ところで…何でここに来たんですか?このログハウスは?」

「この一見ボロボロに見えるログハウスこそが、さっき言った"秘密基地"さ。とりあえず入れば分かるよ」

四宮は朽ちた小さいログハウスの古びたドアを押し開けた。
ドアは激しく軋んだ音を立て、埃を撒き散らしながら開いた。
入り口の向こうには狭く暗い、何も無い部屋があった。
四宮は表情を変えずに澄とクルトを招き入れた。

「あの…ここが秘密基地なんですか?」

二人+一匹で既に狭いと感じるこの"秘密基地"には流石に不安を感じ、四宮に尋ねた。
四宮は澄を無視して、何故か床板を調べ始めた。澄もつられて足元を見下ろした。
ギシギシ言う床板は所々が朽ち果て、足を勢いよく振り下ろしただけで地面が拝めるようになるだろう。

「よし、ここだ」

入り口から向かって、部屋の奥の右辺りで四宮が呟いた。
四宮は懐から小さなアンテナの様なものを取り出すと、床に突き挿した。

「荒川、準備OKだ。開いてくれ」

荒川から軽快な返事が返ってきた数秒後、突然ログハウスが振動を始めた。
驚いたクルトは澄にすがり、澄はまた何か襲撃して来たのかと思った。
が、四宮の様子を見ているとどうやらそうでは無さそうだ。
四宮はニコニコしながらアンテナを挿した床を眺めている。
と、その時突然床板が開き、中には地下に続く階段が見えた。
四宮は澄に、手で「おいで」とジェスチャーし、先頭をきって階段を下りていった。
澄は突然のことに驚いてクルトの顔を覗いた。
クルトは目を輝かせて、まるで楽しいアトラクションにでも乗り込もうとしている表情をしていた。

階段を下りると真っ暗闇、月明かりも入らない漆黒の部屋があった。
四宮がどこにいるのかさっぱり分からない。名前を呼んでも四宮からの返事は無い。
どうしようかと迷い始めた矢先、急に部屋に明かりが灯った
部屋を見渡すと、結構広いということが分かった。
大量のコンピュータなどの機器と家具などが並び、確かに秘密基地らしさは出ている。
奥で電源を入れた四宮が、澄達の方を向いてこう言った。

「開放者"秘密基地"へようこそ澄君、クルト君!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第143号
ページ番号
22 / 23
この作品について
タイトル
禍の仔
作者
ドロッパ(丸銀)
初回掲載
週刊チャオ第122号
最終掲載
週刊チャオ第151号
連載期間
約7ヵ月6日