―第一章"三つ巴の意志"・その17―
「―――さて、質問等はもう無いな?
これからはこうして皆で会うこともせずに、各々連絡を取り合って動く。携帯電話は必須だが、通話・メールは厳禁だ。
盗聴の可能性は低いとはいえ、その低い何%かの可能性のせいで取り返しのつかないことになることもある。
それに通話・メールの両方とも発信源を特定されてしまうからな。携帯で使用する機能は"GPSによる場所確認"だけだ。
連絡を取り合う場合はチャオの諸君に手紙を運んでもらう。人間は鳥をキャプチャーして飛ぶ、というわけにはいかないからな。
では―――解散だ」
ボスは誰よりも早く席を立ち、部屋の外へと消えていった。他のメンバーたちも段々と散っていく。
その中に、あの"リオス"が眼鏡を掛けた長身の男と共にいた。
リオスはキュリムと藤岬に向かって歩いていった。
そして悔しそうな目で二人を順に見た。
「チッ…この前の礼は言っておく。サンキュ。
だがな、オレは助けてくれ、なんて一言も―――」
そこまで言いかけた時、長身の男がリオスの口を一刺し指と中指で押さえた。
「リオス、恩人には素直に感謝するものだ。
感謝するところまではよかったけど、もう少し素直だと尚更いいな」
リオスは指をどけると、フンッとそっぽ向いて部屋の外へと行ってしまった。
「すまないねキュリム、藤岬、僕のパートナーが迷惑をかけたようで。
あれでも彼なりに心を込めた礼なんだと思うが…実際のところどうなんだろうな?」
キュリムはクスリと笑い、藤岬を見た。藤岬は何とも言えない、といった顔をしてキュリムを見た。
「さあね。リオスが礼を言うなんて…明日は雨じゃないか?
でも…リオスのヤツはいいな、パートナーが有能でさ。
私のパートナーなんか…」
「テメェ、俺が無能だとでも言いたいのか?なあ霧嶋、俺は無能じゃないよな?」
霧嶋は微妙に間を置き考え、ポツリと呟いた。
「さあ、どうだろうね」
キュリムは大笑いしているなか、藤岬は苦笑いしながら出立の準備を始めた。
窓の外はもう薄暗い。街の照明がポツリポツリと灯され始めている。
霧嶋は、リオスが部屋から出てから随分経つことに気付いて慌てて別れの言葉を残し、部屋から出て行った。
「じゃ、また会おう!」
他のメンバーは既に全員いなく、部屋にいるのは二人だけとなった。
藤岬が荷物を纏め終わると、キュリムがキーを持って既にドアの前で待機していた。心なしか、少し嬉しそうだ。
藤岬が荷物を持ってドアをくぐると、
キュリムは部屋に鍵を掛けて既にエレベーターに向かっていた藤岬に向かって駆けていった。
上がってきたエレベーターには誰も乗っていない。
二人がそれに乗ると、キュリムが「閉」のボタンを押す。ドアが静かに閉まっていく。
僅かな浮遊感と共にエレベーターが下がり、階数表示がどんどん変わっていく。
階数表示が「1」になった時二人は突然真面目な表情になり、声を合わせてこう言った。
『作戦開始だ』