―第一章"三つ巴の意志"・その16―




"ボス"
そう呼ばれた長髪の男はゆっくり口を開いた。

「よく集まってくれた。今日の議題は既に知っているだろうな?
 "CHAOS殲滅部隊"が動き出したことについての話だ」

ボスは手を顔の前で組み、座っている各メンバーの顔を見回した。
メンバーは誰一人口をきかず、ボスの顔を見ていた。
ボスは軽く溜め息をつくと、手を組みなおし話を続けた。

「―――だが、奴らはそう簡単には動くことは出来まい。何故なら、殲滅部隊は世間に公表されていないからだ。
 実のところ殲滅部隊は―――」




「殲滅部隊は非人道的過ぎた。だから世間に知られれば大きな問題となり、黒葉の政治家生命は終わるだろうな」

四宮は車内で澄達に言った。
ケルミオ襲撃後すぐに四宮が到着し、そのまま四宮の運転する自家用車に乗り込み、移動中だったのだ。
アルフは移動中に車に飛んで追いつき、合流した。
大隈と荒川は別ルートで集合場所で落ち合うとのこと。
事務所には数匹の"武装"したチャオが訪れ、一緒に来てもらわないと武力行使すると脅され、
アルフが"ワシ"のキャプチャーを発動した時の一瞬の隙をついて四宮は逃げ、アルフも窓から風見家を目指して飛び立ったらしい。
丁度その日、大隈・荒川は用があり来ていなかったので運が良かった。
車に乗って逃げた直後、二人にすぐに"例の場所"に集合するようにと、四宮は連絡を入れた。

どうやらケルミオは「対象の容姿・能力をキャプチャーする」という能力のようだ。
途中でアルフは何かによって地上に落とされ、気絶させられた後放置されていたらしい。
彼は少しプライドを傷つけられたようで、車の窓際でふて腐れていた。

「何が非人道的なんですか?」

澄の素朴な疑問に、四宮は前を向いたまま眉間に皺を寄せて答えた。

「まず殲滅部隊の構成員は、Worldと違って全てチャオで構成されている。全て極秘なために人に知られるわけにはいかないのだろう。
 その数はざっと見積もって百匹を超える。その約半数は戦闘員、残りはそうだな…雑用ってところか。
 まぁ、雑用なんてのは問題じゃない。澄君、彼らは何故黒葉に従っているか分かるかい?」

澄は首を横に振った。
そういえば、Worldにいる人・チャオはWorldに所属する目的がはっきりしているのに対し、
殲滅部隊のチャオ達がどうしてあの部隊にいるのか理由がつかない。

「彼らは"脅されている"
 戦闘員に対して「従わないと非戦闘員のチャオ達を処分することになる」と。
 そして非戦闘員のチャオに対しては「戦闘員をしっかりとサポートしなければ、彼らは現場で不幸な死を遂げるかもな」と。
 元々チャオの性格は穏和な者が多い。各異常キャプチャー能力は大体、そのチャオの性格が表れることが多い。
 つまり、戦闘に向かない平和的な能力のチャオはほとんど非戦闘員で、穏和な性格だ。
 だから仲間を見捨てて断ることなど出来ず、また戦闘員も、弱き立場のチャオを盾に取られては無視することも出来ない。
 彼らはそうやって無理矢理働かされている。だからそう目立つことは出来ないんだ」

澄は憤慨した。
顔には出さずとも、手を握り締めて歯軋りをし。
澄の隣に座ったクルトは澄と違い、完全に怒りをあらわにしていた。

「なんで…なんでそんなことしなくっちゃならないんだ!」

窓際でふくれていたアルフはいつの間にか普段のアルフに戻っており、
そのクルトの叫びに冷静に、しかし深い感情を込めて答えた。

「全ては黒葉が悪いんです。黒葉は…全てのチャオを処分しようとしている。
 裏で暗躍する、一部の邪魔な異常能力チャオを始末すればもう邪魔はいない。
 異常能力の恐ろしさ、とでも流して世間からのチャオへの興味を殺ぎ、その後ゆっくり処分する。
 そんなことは絶対にさせません。
 澄君がつけた「解放者」という名のとおり、殲滅部隊もWorldも、私は何かに心を囚われた全てのチャオを解放したい…!
 だから…そのためなら私はこの身なんて惜しくありません」

普段のアルフからは想像もつかない熱弁に、一同少し驚きながらも皆無言で同意をしめした。
アルフはミラー越しに四宮を見て、問いかけた。

「陽介、私は貴方の過去なんてもうどうでもいい。
 その代わり、否が応でも全てが終わるまで、私が貴方の…助手でいられることを約束してください」

四宮は満面の笑みを浮かべて、ちょっとハンドル操作を間違えそうになるほど嬉しそうにし、元気いっぱいにこう答えた。

「それでこそ、私の助手だ!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第141号
ページ番号
20 / 23
この作品について
タイトル
禍の仔
作者
ドロッパ(丸銀)
初回掲載
週刊チャオ第122号
最終掲載
週刊チャオ第151号
連載期間
約7ヵ月6日