―第一章"三つ巴の意志"・その15―



――官房庁舎地下


殲滅部隊のために増設された、真っ暗な地下施設の廊下を一匹のチャオが独りで歩いている。
いくつかのドアを通り過ぎたところで、向こうから人が歩いてくるのが見えた。
成人男性…黒いスーツ姿の…顔面蒼白…、黒葉克貴だ。

「君は…ケルミオか。今まで何をしていた?記念すべき第一の作戦にも参加せずに、どこで何を…」

白いダークオヨギチャオは素っ気無く答えた。

「あんな小規模組織のアジトを潰す程度、ワタクシがいなくてもさして問題は無いでしょうに。
 それとも、ワタクシの所属するこの部隊はあの程度の任務もこなせないとでも?」

黒葉は呆れながらも少し語気を強めた。

「まず質問に答るんだ。君は今までどこで、何をしていた?
 それとも他人に言えない程のことをしていたとでも言うのか?
 答えによっては、君を処分せざるを得なくなるぞ。"第壱隊 副隊長ケルミオ"」

「…これから長い付き合いになりそうなお相手様にご挨拶していたのですよ」

「…事前に敵にこちらの能力が割れると不利になるとは思わなかったのか?」

するとケルミオはフフンと鼻で黒葉を笑った。

「敵?敵ですか…。『貴方』にとっては『ワタクシ達』も敵に違いないのでは?」

黒葉は面食らったそぶりを見せ、ケルミオを見た。

「何?お前は何を言って―――」

「失礼、もう行かなくてはなりません」

ケルミオはその言葉で黒葉を一蹴し、話のみなを聞く前に廊下の奥へと去っていった。

「フン…まさか、な」

黒葉はケルミオの消えて行った方向をじっと見ながら意味深に一言呟くと、懐から携帯を取り出しどこかへとかけた。

「諜報部か。α-03"ジフォーニス"の行方はまだ分からないのか?
 ああ…αシリーズは見つけ次第…始末するよう全隊員に伝えろ。
 ただしα-01"クルト"だけは殺さずに捕らえろ。いいな?
 あのチャオは…あの能力は危険だ…いいか、分かったな?」

黒葉は携帯の電源を切るとケルミオと逆方向の通路を足早に歩いて行った。

「クルト、ジフォーニス、レミシア…そしてケルミオか。
 クルトは記憶を失い一般人のもとで保護、ジフォーニスは行方知らず、
 レミシアは既に確保している、ケルミオは監視下に置けた、か。
 忌まわしい…あの日さえ、もし来なかったなら…」



――都内某所


とある高層ビルのホテルの一室。
洗面所の鏡の前で、藤岬は髪を整えていた。
リビングでは不満そうに、赤く目付きの悪いヒーローチャオがソファに座っている。
整髪を終えてリビングに戻った藤岬は、その不機嫌なチャオを見て困ったような顔をした。

「何がそんな気に入らないんだ?」

「決まっている。何故あの時四宮を始末しなかった?あの時始末しておくかボスに突き出すかすれば、
 こう事が複雑にならずに済んだはずだ!」

藤岬はより一層困った顔をして、ヒーローチャオの隣に座り両手を組んだ。

「あの人は仮にも元盟友だ。それに、俺達は暗殺組織なんかじゃないってことを忘れてないか?キュリム」

「それは知っている。だが…いや、もうこの話題はいい。
 それよりも本当にここにボスやその他のメンバーが集まるんだろうな!?
 約束の時間は確か午後三時…今は四時!
 もう一時間もオーバーしている!本当に約束を取り付けたのか!?」

藤岬はふふっと微笑しソファから立ち上がると、外に面する大きい窓のカーテンを開けて光を取り入れた。

「もちろんだとも。ま…Worldのメンバーは大体が自分勝手で自由気侭だ。
 こうして集まることすら一苦労。でも――指令には忠実だ」

部屋のドアが静かに開き、人とチャオが何人か入ってきた。
彼らは予め決められていたかの様に次々にソファに座り、大きい窓の立っている藤岬に視線を集めた。

「『午後三時より一時間遅れて集まること』という指令どおり…と。きっかり四時、完璧だ。
 さて…まだボスが来ていないか。どうしたものか…」

メンバーの一人が藤岬に訪ねた。

「なあ、藤岬。この『一時間遅れ』ってのは何の意味があるんだ?」

藤岬はフフンと鼻で笑って答えた。

「意味?意味なんて無い。あるとしたら…ちゃんと指令を読んでいるかを確かめるくらいか。
 第一元から集まるのは四時の予定だった。ちゃんと読んでないヤツは三時に来て、
 こいつは使えない、とメンバーから外されるだけだ」

聞いたメンバーは少し疑問そうに溜め息を吐いた。

少し間が空き、各々時間を持て余していると、突然ドアが開いた。
そこに立っていたのは、水色がかった黒の長髪の、黒いスーツの男だった。
男は何もものを言わずにリビングまで歩いて行き、一人掛けのソファに厳かに座った。
藤岬は男を見て微笑み、こう言った。

「お待ちしておりました、ボス」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第140号
ページ番号
19 / 23
この作品について
タイトル
禍の仔
作者
ドロッパ(丸銀)
初回掲載
週刊チャオ第122号
最終掲載
週刊チャオ第151号
連載期間
約7ヵ月6日