―第一章"三つ巴の意志"・その14―
「どうも"初めまして"澄君、クルト君」
澄とクルトは一瞬自分の耳を疑った。
アルフとは間違いなく初対面ではないし、このチャオはアルフに違いない。
だが何故"初めまして"?
アルフは二人の驚いた表情を見て、嫌悪感をもよおす笑顔を作った。
それを見た澄はクルトを抱えて咄嗟に"このアルフ"から離れ、叫んだ。
「お前…アルフじゃないな!?誰だお前は!」
「おお、ご名答。そのとおり、ワタクシはアルフという名のチャオではございません。
ワタクシの名…それは貴方がたが知る権利はございませんし、教えるつもりもございません」
「お前はまさか…殲滅部隊の…?
いや、それよりもアルフをどこへやった!」
それを聞くと、偽アルフはまた嫌な笑みを浮かべた。
「その問いに対して答える気はありませんし、答える必要もありません」
「…何だって?」
「澄君、貴方は元の日常に戻るのです。この危険で非常識な生活などやめて…」
「それはつまり、クルトを連れて行くってことか?」
「…ま、強制をするつもりはございません。ただ、抵抗するならこちらは強行手段に出る他ございません。
貴方の無事も保障出来ませんしね。どうでしょ、ここはそのチャオを差し出して楽になりませんか。
そのチャオがどうなろうと…貴方は別にどうということは無いでしょう?」
澄は抱えていたクルトをそっと降ろし、ツカツカと偽アルフに向かって歩いていき、
そして両手を掴んで乱暴に持ち上げ、偽アルフを壁に叩きつけた。
「お前は…お前もチャオじゃないのか?何故そんなことが言えるんだよ!
何で…同じ仲間なのに…」
そう怒号すると、澄は悔しそうな顔をして俯いた。
偽アルフは依然冷静としていたが、笑うのをやめ、厳しい表情になった。
「本当に…人間とは勝手な生き物ですね。
仲間?仲間ですか。貴方がた人間は?同じ種族同士日夜争い憎しみ罵り合い、
血の雨が降らない日は無く、本心を奥底に閉じ込めないと他人と生きることさえ出来ない。
貴方は…人間は、命が危険に晒されている状況でそうすれば自分だけ助かると知れば、
すぐに友人知人など捨てることも出来るのでしょう。なのにワタクシを責めることなど出来ますでしょうか。
ワタクシ達チャオはその貴方がたにより再生させられた生き物だ。生みの親に似て何が悪い!」
その言葉を聞いた澄は相変わらず俯いていた頭をぐっと持ち上げ、偽アルフを力強く見据えた。
「…戦争が無い日は無いかも知れない、毎日悪口を言い合って憎しみ合ってるかもしれない。
でも!…少なくとも友達を捨てるなんて人間のすることじゃない!
僕は人間だ!クルトは親友だ!だから…だから僕はクルトを守ってみせる!」
澄は怒りと決心の交じり合った眼でじっと偽アルフを睨み、
偽アルフは物凄い嫌悪感入り混じる表情で澄を睨んだ。
少しの間に睨み合った後、偽アルフは澄を振りほどいて窓辺に立った。
「人間は…うわべを飾るのも得意でしたね。大した生き物だ。
いいでしょう。貴方の立派なまがいものの口上に免じて、今日のところは引き上げましょう。
ワタクシの名はケルミオ。以後お見知りおきを…とは言っても、私が本当の姿を見せることは滅多に無いですけどね。
では、またの機会に…」
腕の羽で羽ばたき、ケルミオは窓から飛び去って行った。
澄からは見えなかったが…少し、ほんの少しだけ嬉しそうな顔をして。
「澄、そういえばアルフのことは?」
「あ…しまった、聞きそびれた」