―第一章"三つ巴の意志"・その19―



「開放者"秘密基地"へようこそ澄君、クルト君!」

四宮のその声と同時に荒川・大隈も階段を下りてきた。

「「殲滅部隊の邪魔をする」って向こうにはバレてるんだから、
 向こうが動き出せば事務所が押さえられるのは容易に想像出来る。
 だからこの"秘密基地"を造っておいたの。外見は朽ちたログハウス、
 地下は生活必需品やコンピュータが揃ったシェルターってわけ」

荒川は部屋中央の長テーブルのイスに腰掛けながら説明すると、
大隈に何やらサインをした。
大隈は黙って頷くと、機械類が詰まっている部屋の奥へと行ってしまった。
クルトはというと、その近未来的な構築の部屋に、さながら子供のごとく見とれている。
四宮は、備え付けてあるキッチンでコーヒーを淹れている。

「ところで澄君、君のご両親に連絡は――?」

入り口で突っ立ってクルトと同じように部屋を眺めていた澄は、そのまま眺めながら返事をした。

「大丈夫です。事前に"突然長期家を空けるかも知れないけど心配しないで"的なこと言っておきましたから。」

そう、澄は解放者結成後3日目に、このような事態になることを予想して両親に前もって説明をしておいたのだ。
内容はこのようなもの。

『友達と夏休み旅行に行くんだけど、あいにくいつ行くのか向こうの都合で決まらないんだ。
 だから突然何日か旅行に行くかもしれないけど心配しないで』

しかしこれで誤魔化せるとは澄も考えてはいない。
流石に都合とはいえ、決まったその日に旅行に行くなんて考えにくいだろう。
ま、バレたらバレたでその時はその時、と考えてる澄は意外に楽観的だった。
荒川は澄に席につくように薦め、澄はまだ見とれているクルトの手を引っ張りながら席へと向かった。
四宮が人数分のコーヒーをトレイに乗せてテーブルの上に置き、
席につくと何かのリモコンをポケットから取り出し、ボタンを押した。
すると壁の一部が横に素早くスライドし、大型スクリーンが現れた。
あまりに突然だったので、澄は驚きコーヒーを吹きそうになった。

「これは・・・?」

四宮は澄を一瞥し、大隈に合図をした。
スクリーンに何かが映し出された。
地図・・・のようだ。その中に移動している点が幾つかあり、その点の上には名前が表示されている。

「藤岬、キュリム、霧嶋、リオス、四宮、アルフ、風見、クルト・・・これは―――発信機?」

「そのとおり。藤岬達はこの間の接触の時にこっそり付けておいた。
 藤岬達のことは話してなかったっけ?彼らもWorldの一員だ。藤岬とキュリム、霧嶋とリオスのコンビのね。
 霧島は組織にいたころに既に発信機をつけた。何故服を着替えても場所が変わらないか、ってのは後で説明するとして。
 チャオは肌に直接つける、という形になって気付かれると思ったんだけど・・・案外バレないものだね」

四宮はコーヒーを啜るとカップを置き、立ち上がり藤岬と霧島の点を順番に指差した。

「この二組のコンビが今のところ、最もWorldで危険だ。だからこそ発信機をつけ、動きを見張っている。
 殲滅部隊のチャオにもいずれつける予定だ。が、今は先にWorldを何とかしたい」

「何故ですか?脅迫され拘束されている殲滅部隊のチャオの方を優先したほうが―――」

「正直、殲滅部隊を解放するとしても、あまりに戦力差があり過ぎる。だからWorldの連中を何とか説得して味方につけたいんだ。
 藤岬・霧嶋達の二組は危険な反面、殲滅部隊と互角に戦う――とは言ってもやむを得ない場合のみ――のに必要なんだ」

澄は多少の疑問を抱えつつも、今の段階ではこれが最善と考え、頷いた。
今日のところはこれで終え、明日からの行動に備えて慣れない"秘密基地"で就寝する澄達だった。





―――そして物語は八月中旬へ

人間の生み出した"禍"は、人の領域を奈落で侵食していく―――



第一章・完

このページについて
掲載号
週刊チャオ第151号
ページ番号
23 / 23
この作品について
タイトル
禍の仔
作者
ドロッパ(丸銀)
初回掲載
週刊チャオ第122号
最終掲載
週刊チャオ第151号
連載期間
約7ヵ月6日