―第一章"三つ巴の意志"その12―
「・・・ありがとう。
良かった、断られたらどうしようかと思ってたよ」
四宮は嬉しそうに言った。
「早速だが、紹介したい人がいる」
四宮は自分の仕事用デスクの上の携帯を手にとると、開いてどこかへ電話した。
一件目の会話を終えるとすぐに二件目へと電話をかけ、再び会話を終えると携帯を折りたたんでデスクの上に置いた。
「すぐに来るから少し待っててくれ」
「誰・・・ですか?」
「まぁ・・・一人は君でも見たことがある人物さ」
澄に心当たりはあった。というかあり過ぎて分からない。
見たことがある人物は沢山いる・・・絞り込むことは不可能だ。
会えば分かることなので、澄はあまり気にはしなかったが。
澄は四宮に聞きたいことがあった。ここに来た二番目の目的だった。
「あの・・・"ジフォーニス"ってチャオ知ってますか?」
その言葉にアルフがピクリと反応した気がしたが、アルフはそのまま考え事を続けた。
四宮は首を横に振り、何があったのかを聞いた。
澄が今日、家に戻ってあったことを説明し終えると、今度は四宮が考え込み始めた。
「ジフォーニス・・・知らないなぁ。聞いたことは無い。Worldでも殲滅部隊でもない・・・フリーのチャオか。
うーん・・・。淡い光・・・キャプチャーか?いや、でも相手のチャオには何ら変わりは無かったし・・・。
その一緒にいたチャオの名前は?」
澄が二匹の名前を言うと、四宮の表情が変わった。
「グランシィにナブラ・・・その二匹は元々Worldにいたチャオだ。私も何度か見たことがある。
数ヶ月前、作戦中に組織を勝手に脱退して追われてると聞いたんだが・・・。
何らかの理由でジフォーニスとやらと一緒にいるのだろう。
まぁ、特に気にすべき対象じゃない」
澄は「そうかなぁ」とも思いつつ、確かに四宮の言うとおりでもあるのでこの件は保留することにした。
そういえば、まだリオスがどうなったかを聞いていなかった。
「あの・・・リオスは――」
言いかけた時、不意に事務所のインターフォンが鳴った。
四宮の呼んだ人だろうか。四宮が対応のために玄関を開ける。
すると、そこには大柄でボウズ頭の黒スーツ男と、アロハシャツを着た小柄でショートヘアの若い女性が立っていた。
何故アロハシャツ?という疑問が一瞬澄の頭に浮かんだが、そんなことはどうでもいいことにすぐ気付いた。
「紹介するよ。こっちは大隈真、君は一度見たことがあるだろう?」
澄は確かにこの男を見たことがある。四宮と最初に出会った時、一緒にいた人物だ。
「こっちは荒川奈津。大隈の役目は情報の"収集役"で、荒川はその情報の"処理役"をしている」
大隈は澄に対して律儀にお辞儀し、荒川は澄の肩を叩いて陽気に「よろしく!」と言った。
「そして私はその情報を元に行動する"実行役"だ。君も実行役をやってもらうよ」
澄は少し戸惑ったが、意を決して答えた。
「はい!」
四宮は、秘密基地を作る子供の様な、無邪気な笑顔を浮かべながら言った。
「そうだな・・・四人も集まるとこう・・・何か名前が欲しいな。集団としての」
「そうねぇ・・・じゃあ、新入りの澄君に決めてもらいましょーか?
どうせ私達大人にはお堅い名前しか浮かばないでしょうから・・・気楽に考えてみてよ澄君」
澄は困った。いきなりそんなこと言われても、澄には正直それほどボキャブラリーは無い。
なので、実はクルトが最初から名前を持っていて助かったりしていた。
頭に渦巻く考えに混乱しながらも、澄は様々な案を巡らせていた。。
チャオ開放連盟・・・いや変だ・・・同盟・・・何か壮大なものになってる・・・もっと単純な・・・うーん・・・ああ、これだ!
澄の頭の中で考えがまとまり、勇気を出して口にしてみた。
「解放・・・"解放者"ってのはどうでしょう・・・?」