―第一章"三つ巴の意志"その11(後半)―
「黒葉他数名の政治家や芸能人は代表として試運転に参加し、あのリニアに乗った。どこからかその情報を得たWorldは、
そのリニアを襲撃することを計画しており、私もその計画に参加していた。
・・・この計画で、私は組織と決別することになった。
計画の内容は、要人を守るボディーガードに成りすましてチャオと共に忍び込み、黒葉を事故に見せかけて暗殺するという内容だった。
暗殺する理由は、黒葉は殲滅部隊の指揮権等全てを握っていて、ほぼ黒葉の私兵団だったからだ。
黒葉さえいなくなれば部隊は自然崩壊自然消滅する、と。
私はあるチャオと計画に参加した。フィーリィとか言う青いヒーローチャオだ。
なかなか人間味に溢れた面白い奴でな。私は元々、組織には政府に疑問があるということで入ったのだが、
よくそのことで悩んだ。
本当に、組織に入ったことは正しかったのか、と。
そんな時、フィーリィはいつも励ましてくれた。『お前が想う道を進めば良い。その道が間違いなら、少し戻れば良い』と・・・」
そこで四宮の言葉が止まった。
四宮の顔には深い悔恨の念と、滲み出る様な怒りの念が浮かんでいるのが見えた。
澄には何があったのかは知る由もないが、恐らくそのチャオが何か関係しているのだろうと思った。
四宮の表情が元に戻ると、更に話を続けた。
「あのチャオを連れてリニアに潜り込み、黒葉の乗っている7号車の戸を開ける瞬間だった。
・・・アナウンスが流れた。
『乗客の皆様へ、緊急連絡です 当リニアモーターカーに過激派組織が乗り込んでいるとの連絡が入りました
人数は四~五人 数匹のチャオを連れていて ボディーガードに変装している模様 乗客の皆様は充分にご注意ください』
メンバーの誰かが恐らく下手を打ったのだろうと私は思った。
しかしここで疑問が二つある。まず一つ。
"メンバーは誰も捕まっていないこと"つまりどうやって潜り込んでいることが、向こうで判明したのか分からない。
潜り込んだのは「本業の者」だ。つまり、ボディーガードを派遣した会社の方に、先に私達Worldの者が潜り込んだ。
そのためには何ヶ月か仕事をこなして、その重要な仕事を任されるまでにならなければならなかったが。
だから別に、本来のボディーガードに成り代わったわけじゃない。我々は"元々行く予定"だった。
人数は最初と同じだ。だからどこから足が付いたのか全く分からないんだ。
そしてもう一つ。"何故アナウンスをしたか"
アナウンスをしなくとも、ボディーガードに化けていると分かっている以上、密かに捕らえた方が遥かに容易。
だが逆に向こうは犯人達を逆上させかねない行為をした。
逃げ場の無い、500km/時のリニアの中。
あんなアナウンスをされては、選択肢は"捕まる前に黒葉を始末する"以外に無くなってしまう。
何故、自分達が危険な立場になるあのアナウンスをしたのか・・・全く理解が出来ない。
まぁ・・・そんなことはその時はどうでも良かった。
あと一歩で黒葉の車両だったからだ。
私は心に平静を取り戻しつつ、私は再び戸に手をかけ乗り込もうとした。
が、突然車両が大きく揺れると同時に体に大きな衝撃が走り、天地が逆転を繰り返した。
そう。車両が横転したのだ。
どのチャオかは分からないが、恐らくアナウンスで興奮して暴走したのだ。
事後確かめてみると、車両に大きな爪跡のような傷があった。
私はリニアの中を転がり回り、擦り傷を少し負っただけで済んだ。
だが私のパートナーのチャオは・・・もう組織に戻ることは無かった。
車両と車両の間に挟まれ、助けることはもう不可能だった。
まだ挟まれた後も暫く意識はあった。だが・・・その暫くが終わると事切れた。
最後に『お前の想う道を進めば良い。その道が悪路だとしても、先に光があるならば』と遺して・・・。
恐らく奴もWorldに少々の疑問を感じていたのだろう。本来はチャオの保護のためだけに動いていたはずなのに、
何故、いつから人に危害を与えかねない行為をするものになったのか、と。
何故、人を殺すまでにならなくならないといけなかったのか、と。
私の、Worldに対するのみならない疑問はその日を境に膨れ上がり、数日しないうちに私は・・・組織を抜けた。
己の考えを、今一度纏め直すために」
喋り切ると四宮は再び沈黙した。
澄もそのフィーリィというチャオの冥福を祈って、黙祷を捧げるようにして沈黙した。
アルフは何か考える様にして顔を手に乗せなおした。
クルトは澄に倣い、黙祷を捧げた。
何分か無音の空間を過ごした後、四宮が沈黙を破った。
「私の話は終わりだが・・・澄君、決まったか?
別に無理強いはしない・・・だが、両方から狙われているであろうクルト君がいる限り、
クルト君はもちろん君にも被害が及ぶだろう。
さあ・・・どうする?」
澄の心は決まっていた。クルトの方を見ると静かに、だが力強く頷いた。
「もう決まっています。・・・一緒にやらせてください」