―第一章"三つ巴の意志"・その4―
クルトが話せる状態になったので、さっきのチャオのことを聞いてみた。
するとこんなことを言っていたという。
『てめェか、"α-01"のチャオってのは。オレはリオス。反政府組織"World"の一員だ。
オレ達の目的はズバリ「チャオの解放」と「チャオの保護」!
・・・知ってるか?奴ら政府は異常キャプチャー能力に怯え、秘密裏に「チャオ殲滅計画」を進めている。
――が、奴らは「CHAO」をもじった「CHAOS(カオス)殲滅部隊」なんてものを密かに作り、
果てには本来奴らの敵のはずの異常キャプチャーのチャオをも戦力として使おうとしている。
驚いたか。これらは全て公表されず、水面下で起こっていることだ。
オレ達"World"はこの事実に気付いた者の集まりだ。
この政府の暴挙を止めるためにあんたにも手伝ってほしい』
だが「自分には出来ない」と言うと態度を豹変させ、襲い掛かってきたという。
僕はクルトの頭を撫でながら考える。
まさか・・・そんなことが起きてるとは夢にも思わなかった。
ん・・・?"α-01"とは何のことだろう・・・?何かの識別番号?彼ら独自のチャオに対する番号だろうか。
まぁ、それはおいておこう。
にしても・・・政府は、異常能力を持たないチャオすらも根絶しようというのだろうか!?
そんな・・・クルトは何もしていないし、寧ろ平和を好む。いや、ほとんどのチャオはそうだ。
なのに政府は・・・。
彼ら、Worldとやらも平和な組織では無いようだ。
確かに「チャオの開放・保護」という大義名分はあるようだが、同意しない者を始末するという冷酷さは否めない。
政府とWorld・・・どちらも危険だ。
だけども日本に住んでいる限り政府から逃げるということは不可能だし、恐らくWorldも・・・って何故?
ここで僕はある疑問に気が付いた。
何故政府もWorldもクルトを狙って来るのか。
別段クルトは凶暴だというわけもなく、異常能力も持ちえていないはず。
だけども・・・政府は特A級の危険度とか言っている。
一体何故?第一にチャオは住民票等が無いため、調べようとしてもかなり困難だ。
それに他にも同じ様なチャオはいる。印と言えば名前くらい・・・名前?
そういえばクルトは出会った時から「己の名前」を名乗っていた。
僕はクルトと出会う前のことは何一つ知らないし、聞いていない。必要無かったからだ。
そして"α-01"という謎のコードネームの様な何か・・・。
もしかして・・・クルトは何か秘密を、言えない様な秘密を持っているのだろうか?
僕はまた嫌な予感をめぐらせて、クルトに聞いてみた。
「君はどこで生まれたんだい?」
するとクルトは、嫌な予感を超える答えを言ってきた。
「僕は・・・僕が生まれたのは水がいっぱい入ったガラスで出来た筒の中だよ」
「筒の・・・中?」
全く聞いたことの無いクルトの過去は、想像を遥かに超えてしまった。
クルトは今まで溜めていたかの様に過去を吐き出し続けた。
「そう、筒の中。狭くて狭くて・・・とにかく嫌だったよ。外では白い服を着た変な人達が何かを書いたりしてたし。
ある日突然外に出されて――凄く嬉しかったんだ。だから戻されるのが嫌でそこから逃げ出した。
夢中になって逃げたから、その時のことはよく覚えてないんだ。
で、その後すぐに澄と出会ったんだよ」
・・・これが夢なら覚めてほしい。
水で満たされたガラスの筒というのは大型の培養器か何かで、
白い服の人々は科学者だろう。
つまり・・・"クルトは繁殖で自然に生まれたのでは無く人工的に作られた"ということだ。
チャオは元々人工的に作られたから良いんじゃないか、と疑問に思う人もいるだろう。だが違うのだ。
人工的に作られたのは最初の二匹"のみ"で後々のチャオは繁殖で増える。
人工的に作るとなると、多大な予算がかかってしまう。
一体そうまでして、何故?誰が?何の目的で?
クルトは・・・彼は普通のチャオじゃないのか!?
クルトは驚き戦慄いている僕を見て、頭のポヨを「ハテナ」に変えていた。
「答えを教えてあげようか?」
僕はその声の方を向く。そこには・・・あのオールバックの黒スーツが立っていた。
黒スーツは破れたドアを見て一言。
「・・・Worldか」
やはり彼らもWorldのことは知っている様だ。
・・・この人も信用はならない。
「・・・答えって何ですか。チャオ殲滅計画って本当なんですか?」
彼は溜息をついて答える。
「そう急かさないでくれ。順に話すから」
そう言うと彼は壁に寄りかかった。
と、同時にけたたましいある音が耳に入った。
パトカーのサイレン音だ。
それを聞くと、彼は慌てた様子で部屋の奥へと走った。
そして窓の枠に足を掛けた。
「おっと、警察が来てしまったようだな。
ということで話は後々話すから、また今度っ!」
なんと彼は窓から飛び降りて家を囲むブロック塀をを乗り越え、どこかへ走り去っていった。
逃げる様にして彼が去ったあとには、澄とクルトと、パトカーのサイレンの音だけが取り残された。
ふと、澄は窓の下に目をやった。すると小さな紙切れが一枚、ポツリと落ちていた。
さっきはこんなものは無かったはずなのに・・・。そう思い、紙切れを拾い上げるとこう書いてあった。
「喫茶店」