―第一章"三つ巴の意志"・その2―
    商店街を歩いていると黒スーツのガタイの良いボウズ男と痩せ型のオールバックの男の二人が僕の横についてきた。
もちろん気味が悪いので早足で歩こうとすると、男達は僕の肩を掴んでこう言った。
「ちょっと・・・お話いいですか?」
意に反して男は優しげな声をしていて拍子抜けしてしまった。
僕は、怖くないのなら別に話くらいはいいかな、と何とも間抜けた考えで彼らについていった。
一緒に来た先は商店街の喫茶店。
夕方の喫茶店で学生一人に黒スーツ二人。何だか変な光景である。
男は席に座り、コーヒーを三つ頼むとすぐに話に入った。
「突然すいません。何しろ急な話ですので。
 あ、我々は政府の者です。細かいところまでは言えませんけども・・・。
 えっと、確か・・・」
男は僕の名前を言おうとしているらしいのだが、忘れてしまったようだ。
どこで調べたかは知らないが。
「・・・風見、澄」
僕はぼそっと言った。男はそれを聞いて話を続けた。
「ああ、風見澄さんでしたね。早速ですが、本題に入らせて頂きます。
 貴方、チャオをお飼いになられてますよね?そのチャオのことです」
「飼い」という言葉に少しカチンときたが、別に怒ることでもない。ほとんどの世の人にとってはチャオはペットなのだから。
それよりも疑問がある。
クルト、クルトに何の用だろう。というか、何故僕にわざわざ、しかも下校途中に話すのだろうか。
疑問はどんどん募っていく。
「あのチャオは・・・危険です」
「・・・何故?最近のチャオの襲撃事件とかとはクルトは無関係ですよ」
僕は少しムキになって答える。
すると男は深刻そうな面持ちで僕に言う。
「・・・あのチャオは"異常キャプチャー能力"を持っています。
 それも、特A級の危険度の」
異常キャプチャー・・・耳にしたことは何度かある。
本来のチャオのキャプチャー能力は、他の生物の遺伝子情報を取り入れて
自らに反映するというだけのもの。異常キャプチャーはその基本を大きく外れ、
物質のキャプチャーを始めとする異質のキャプチャー能力。
その能力を持つチャオには凶暴なチャオが多いことも知っている。
だけども・・・。
「彼は凶暴でも何でもない、ただのチャオです。
 ましてや異常キャプチャーなんてものも使ったことが無いのですから」
男は真剣な目つきで言う。
「だからこそ危険なのです。いつ能力に目覚めるか・・・分からない。
 故に今のうちに処分を・・・」
その『処分』という言葉に、僕は理性を失いそうになった。
「すいません。異常キャプチャーによる被害は知り得てます。
 だけどもチャオを蘇らせたのは他でもない、僕達なのですよ!?
 貴方方に『処分』なんて言葉を使う権利はあるのか!」
男は少々驚き、目を逸らしながら言った。
「我々も耳が痛い。だからこそ、君に了承を得に来た。
 ・・・この調子では無理そうだね。我々は大人しく撤収することにする」
意外にも男達はすんなりと帰った。もう一人の男は何か言っていたようだが、彼はすぐにその場を立ち去った。
しっかりとレジでお金を払って。だけどコーヒーは飲まずに。
残った三人前のコーヒー・・・どうしようか。
いや、それより彼らは「政府の者」とは言ったけど、細かいところは何なんだろう。
もしかして、他の飼い主にも同じことをしているのだろうか。
ん・・・待てよ?彼はクルトの事を「特A級の危険度」とか言っていた。
彼らは、彼らにとってそんな危険なものを放っておくだろうか。いや、おかないだろう。
なら・・・クルトが危ない!

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